よろしくおねがいします

指定された時刻に円卓の間に来てみると、その場にはゼムナスとヴィクセンとサイクスがいた。このメンツは、と考えてみると何の用なのか容易に想像できる。
俺が集まったところでようやくといった様子で「さて」と言ったゼムナスに皆はゼムナスの言葉に耳を傾けた。


「ここに集まってもらったのは他でもない。オニキスのことだ」


もったいぶったようないつもの口調でそう言ったゼムナスに俺は特別な意味もなくため息を吐き出す。


「オニキスはレプリカ計画を行っていく上で生まれてしまったレプリカだ」


「生まれてしまった、とは?」


ヴィクセンの言葉に疑問を持ったらしいサイクスがその疑問をヴィクセンに投げかける。そこは俺も気になったってハナシだ。ナイスだサイクス。と、そんな視線をサイクスに向けてはいるもののこちらには全く気付いていないようだ。


「言葉の通り、生まれてしまったのだ。生むつもりはなかったのだよ。おかげで、素晴らしく、そして最高傑作のレプリカが出来上がってしまったッ!」


と、嬉しそうに語るヴィクセン。自分すげー!っていうことを誇示したいのだろう。うんうん、はいはい、すごいすごい。
円卓の椅子から身を乗り出して何がすごいかっていうのをひたすら語りだしたヴィクセンを誰か止めてくれ。ゼムナスもサイクスも俺もほとんど聞いてはいないのだ。


「なにより素晴らしい点は、心が初めからあるという点だ!キーブレードと心は密接な関係がある!実に興味深い!まだ実験をしてはいないが、あのレプリカもキーブレードを使うことはできるだろう!」


ヴィクセンはそこまで言ってようやく落ち着いたのか、荒れる呼吸を整えながら椅子に深く腰掛け「以上だ」と落ち着いた口調で言った。
なるほど、それならオニキスのあの意味不明でついて行けない登場の仕方にも納得できるような気がしてきた。たぶん。


「ふむ、なるほど…」


「――どうなんだ、オニキス?」


さっきから気付いてはいたものの黙っていた俺たちの話を立ち聞きしている存在に直接聞いてみれば早いではないか。やつは観念したように片手で申し訳なさそうに自分の後ろ頭を掻きながら姿を現した。


「たはは…さすが皆様方、お気付きになられてましたか…」


「どうしてこんなことを?」


「盗み聞きが趣味なので」


はっきりとそんなことを言ってみせたオニキスは先日と同様になぜか自信ありげに仁王立ちした。かと思えば少し短い前髪を照れ臭そうにいじり始める。まったくこいつの行動が読めない。


「いやあ、だってわたしの話してるじゃん?そりゃ聞きたくなるじゃん?しかもなんかわたしすごいみたいな話じゃん?聞くしかないじゃん?じゃんじゃん?」


そんなオニキスを見て眉をしかめつつ睨めつけているサイクス。その視線に気付きくねくねと気持ちの悪い動きをしながら「そんなに見つめないでくださいよ照れるぅー」と言っているオニキスはおそらく、いや、間違いなく馬鹿だと改めて知らされた。


「話を聞くに、わたしがキーブレードを使えるか知りたいと見える!だが残念!わたしはまだ試してないのだ!それにここで試すつもりもないのだ!…なぜかって?おいおい、言わせないでくれよマイハニー…。能ある鷹は爪を隠すって言うぜ…?」


誰がマイハニーだ。
誰にもしゃべらせないつもりなのか俺たちの返事を全く聞かずに話を進めていくオニキスに俺たちはまた先日のようにぽかんとオニキスを眺めていた。つまりは見せてはくれないということか。そうなら最初からそう言え。
そんなオニキスを見てこいつと関わるのは疲れると言いたげにサイクスとヴィクセンはほぼ同時にため息を吐いた。息ぴったりだ。息だけに。


「まあ良い。いずれ見せる時が来るだろう」


「楽しみにしていますよ、オニキス――」


これで会議は終わりなのかヴィクセンが勝手に闇の回廊を開いてこの場から退場した。それを見たサイクスは無言で退場する。無言の圧力ってハナシか。
さて、俺はどうしたものか。俺も退場させてもらおうと思い闇の回廊を開こうとしたところでオニキスの顔をふと見てみる。やつは似合わない真剣な表情をしていた。


「さっきまでおとなぁーしく聞いててあげたけどね。まずあんたに言わせてもらうよ!」


ゼムナスに対して人差し指一本を向けたオニキスを見てやっぱりこいつは馬鹿なんだなと思った。そして、さっきまでの真剣な表情から打って変わって、再び自信ありげな表情へと変わってこうゼムナスに言い放ったのだ。


「わたしはレプリカなんかじゃない!人間よ!!」


それだけ言って満足したのかはーすっきりしたと言いたげな満足した顔をしてゼムナスから背を向けて出て行ってしまった。俺はその背中を見えなくなるまで見送ってからゼムナスの方を横目で見てみる。
ゼムナスの口元には笑みが浮かんでいた。



その後、“わたしはレプリカじゃありません。人間です”というでっかく書かれている一言と下手くそでかろうじてわかるかもしれない程度の自画像が描かれてある紙が全ての部屋中に撒き散らされていた。ゼムナスに言っていた“まず”とはこのことだったのだろうか。大量過ぎて床がほとんど見えなくなっている撒き散らされた紙を一枚拾い上げ、これから機関はどうなっていってしまうのだろうか、とそんなこと考えていた。


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