アクセル

ふあ、と。大きな欠伸を堪えきれず手で隠さず漏らす。
今日は休みでもないのになぜか早い時間に目が覚めてしまった。とりあえずやることもないので無駄に長い廊下を歩き、いつもの闇と光を紡ぐ庭にでも行こうかと思っていた時だった。


「レレレのレー」


闇と光を紡ぐ庭から機嫌がよさそうな鼻歌とそんな意味不明な言葉が聞こえてきた。どこかで聞き覚えのある言葉だが、まあ聞かなかったことにしておこう。
廊下の先にある開けた場所、闇と光を紡ぐ庭へ来てみると、そこにはあまり見慣れない後ろ姿があった。どうやら少女のようだが、誰だったか。
その少女はさっさっと一定のリズムで箒を動かしているようだ。ところどころその箒と床となにやら紙のようなものが擦れる音に混じって「ぐふふ…」と不気味な声が聞こえるのだが、それもその少女が発しているものなのか。とりあえず俺はその少女の動きを近くにあるソファにどかりと座って眺めることにした。
すると、箒を動かすのを止めて少女は「よし!」と言った。どうやら用事が終わったようだ。くるりと後ろ姿を見せていた少女がこちらを振り返る。俺と目が合った。


「どぅわっ!?いつからそこに!?貴様まさか、禁断のあの術を使えるというのか…。止めておけ。貴様にはまだ早いぞ…」


そんなことを言って驚いて体を反らせたかと思えば、すぐに体勢を立て直してやけに真剣そうな声と表情でそんなことを言った。え、俺禁断のあの術って使った覚えがないぞ。そんなことを考えつつその少女の顔をじっと見ているとようやくその少女の正体を思い出した。


「何やってたんだよオニキス」


「何やってたんだよって、見てわからない?掃除よ掃除!」


俺の方にぐいぐいと近寄ってきて持っていた箒をずいずいと突き出してくるオニキスに俺は「わかったわかった」とオニキスを離れさせようと肩を押した。
言われて見るとオニキスがさっきまで箒を動かしていたところには大量の紙が積み上げられている。そういえば昨日、オニキスが“わたしはレプリカじゃありません。人間です”というでっかく書かれている一言と下手くそでかろうじてわかるかもしれない程度の自画像が描かれてある紙を城中にばら撒いていたのだった。廊下を歩いていて何事もなかったかのようにすっきりしていたためすっかり忘れていた。床も見えないくらいに撒かれていた紙を掃除をするのにどれだけの時間を要したのだろうか。いや、考えないことにしよう。


「アクセルこそどうしたの?早起きは三マニーの得ってやつ?えっらーい!どれどれこのわたしがなでなでをしてやろう。一回三マニーってことにしてやろう」


「いらねえよ!」


俺の頭に手を伸ばそうとしているオニキスの手を払う。するとオニキスは「あんっ」と悩ましげな声を出して俺に払われた手を違う方の手でさすっている。それに加えて俺のことを涙目だけでなく上目づかいで見つめてくる。


「ひどい…。あなたがそんな人だとは思わなかったわびえーん!……ちらっ」


「おまえな…」


呆れたように俺は額に手を当ててやれやれと首を振っていると、またオニキスは表情をぱっと変えて今度は笑顔になった。俺がうんざりしているような顔や態度をしているのを見て愉快そうに笑っている。俺にはこいつが理解できない。そもそも俺には心がないんだ。心があるやつのことなんて理解できるわけがない。


「ところで、なんで掃除をしてたんだ?」


「わたしが掃除しなかったら誰が掃除するの?次の日になったらきれいさっぱり何事もなかったかのようになってるっていうご都合主義的な展開はアニメだけだよ?」





*prev next#
back




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -