協力願い、仕方なく快諾

自室のベッドの上で目が覚める。今日も清々しいお昼前だ。

今日はマスター・エラクゥスの弟子であるテラ、アクアのマスター承認試験らしい。ボク自身には特別何の関係もないが、マスターに来るようにと強く勧められていたのを思い出す。
始まるにはまだ少し早い時間だ。ベッドから降り、服装を軽く整えて部屋を出た。

試験会場へとゆっくりと歩いている途中、道のあちらの方からボクの方へとゆったりと幽玄とした雰囲気を漂わせる老人。
マスター・ゼアノート。
ボクと同じ、否、ボクなんか比にならないほどの闇を感じさせるゼアノートの横を横切ろうとするが、それは遮られる。


「何か用?」


ゼアノートに掴まれた肩がムズムズと疼く。ボクは普段よりも機嫌の悪そうな表情を見せながら、ゼアノートの方へ顔を向ける。そんなボクを見てか不気味にもニヤリと笑うゼアノートにボクは少なからずもの寒気が走った。


「私を手伝ってはくれないか?」


急に何を言うんだこの老人は。ボクはその老人を睨みつけてやる。そしてこう言葉を投げつけた。


「手伝わない」


ボクがそう答えることは予測できていたのか大して驚いたりしないゼアノート。まあこの顔の老人がこれくらいで驚いたらそれはそれで気味が悪いけれど。
そろそろ放してもらえるだろうか。そう思って振り払おうとすると、ゼアノートは放してやるものかとボクの肩を掴む手の力を強めた。痛いんですけど。
ボクは諦めてこの老人が自ら放してくれるのを待つことにした。一体いつになるんだろう、と途方に暮れたようにため息を吐く。


「聞けばおまえは闇の力を使うそうではないか」


「だから?」


ボクがそっけなくそう返事するとゼアノートは笑みを深めて、ただボクを見据える。ほんの一瞬だけ視線が合ってすぐにボクの視線は床へと落ちた。出来るだけボクの目はずっと見ないでください。居心地が悪いです。


「協力するならば、おまえに世界を渡る力を与えよう」


世界を渡る力。
ボクは闇の力に頼りすぎているせいか、マスター・エラクゥスから異空の回廊を渡るための鎧を与えられていない。

(闇の力に頼ることの何がいけないのか)

闇は強い。光なんか簡単に消してしまえる。鎧さえあれば異空の回路を多用したとしても、心がこれ以上闇にとらえられない。
少しの沈黙を破ったのはボクの漏らした笑みだった。顔は無表情のままふっと漏れた笑みと共に、ボクは顔を上げる。


「いいよ、協力しても」


ゼアノートは今度は歯を見せて笑った。その表情に鳥肌がたつが、ようやくゼアノートの手がボクの肩から離れたので良いことにしよう。


「私が合図をする。その時におまえの力、闇の力を私に貸してくれ」


「わかった」


頷けばゼアノートはボクに背を向けていってしまった。ボクはゼアノートが掴んでいた肩の辺りを手で払ってから試験会場へと向かう。

ふと、思ったことがある。ゼアノート、試験会場と逆の方向に歩いていったが、良いのだろうか。


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