ボクは真実を知ったのに、みんなは知らないから。いつもと何ら変わりない態度に、ボクは苦しくなった。もしもみんなが本当のことを知ったら、そんなことを考えてしまって。 ――て、何でそんなこと考えてんだろ。 仲良しトリオのこと、何とも思ってないのに。 おかしいな、と思いながら頭を掻く。まだボクはここで何もしていない。 (とりあえず、この辺り歩いてみるか…) 後ろを見てみると、今までアクアで気付けなかったが門がある。 その先には何があるのだろうか。 何となく気になったボクは止まっていても何も始まらない、と自分に言い聞かせて足を動かした。 ここは街か何かか。 建物が建ち並んでいて、ボクはキョロキョロと辺りを見回す。 きっとはたから見るとただの迷子だろう。 特別何もないな、と判断したボクは闘技場の中も見てみようと身を翻した。 「ん?」 視界にちらりと見えた小さな赤色。 どうやら生き物のようで、中年のような腹を持つ小さな生き物はため息を漏らしつつ歩いている。 大分お疲れのようだ。 ボクの視線に気付いたらしいその生き物はボクに視線を向けた。 咄嗟に視線をそらすが時はすでに遅かったらしい。 その生き物はボクの方へと歩いてくるではないか。 (このまま脱走してしまおうか) でも、そうしたらこの生き物はどうなってしまうのだろう。 ごちゃごちゃと考えていると、とうとう「おい」と声をかけられた。 内心ドキィッと心臓が跳ねたがやはりそれは表情に現れなかったようだ。 「何?」 「べっぴんさんだな。一緒に俺が鍛え上げた英雄について語り明かさないか?」 「はぁ?」 なんだこいつは。 次いで、ヒーローとはなんだ。 といった質問を投げ掛けてやりたかったが、こいつには一言で十分だろう。 「遅れた、俺はフィルだ。おまえさんは?」 「…##NAME1##」 「で、俺が鍛え上げた英雄について語り明かさないか?」 「嫌です」 普通に考えて無理です。 即答したボクにいじけてしまった様子のフィル。 このまま行ってしまおうか、と本気で考えたその時だった。 アンヴァースが現れたのだ。 それに気付いたらしいフィルはボクの前に立って戦闘体勢に入る。 「##NAME1##、ここは俺に任せて逃げるんだ!」 「…え」 ここはフィルの好意に甘えて逃げるべきか。 いやいや、待つんだボク。 明らかにこの数とフィルでは圧倒的すぎるし、フィルの実力をボクは知らない。 もしもボクがここで逃げてフィルがやられたら。 (…何か嫌だ) ため息をつきつつキーブレードを握り、ボクの前に立っていたフィルの前に立つ。 「キミが逃げな」 「じゃ、じゃあ…お言葉に甘えて」 そそくさとどこかに隠れてしまったフィル。 いない方がまだ楽なのかもしれないが、フィルの実力も少しだけは気になっていたのに。 そんなことはどうでもいい、とフィルを忘れて目の前のアンヴァースに意識を向ける。 キーブレードを構えて1、2。 3。 足をバネのように折って伸ばして飛び上がった。 まずはキーブレードを回転させながらアンヴァースに向けて投げ、着地するとともにキャッチ。 まるですべてが計算されたような滑らかな動きでアンヴァースを倒していく。 (ボクが人じゃないから) 頭を過った言葉に胸をズキズキと痛めながら倒していった。 何でボクはアンヴァースを倒しているんだろう。 ──何でボクは生きているんだろう。 誰でもいいから、答えてよ。 「強いな##NAME1##。おまえも闘技場に…って、もう募集は終わったか」 アンヴァースを倒しきると、どこからか現れたフィルが言った。 キーブレードを仕舞ってから「参加できない?」と問いかける。 「参加はできないが、俺から英雄についてを聞くことはでき──」 「それはもういいから」 ぴしゃりと言い放つボクにがっくりと肩を落としたフィルを滑稽に思う。 もう参加はできないのか。 参加をしたかったな、と大会に参加するアクアと参加しているかもしれないテラを思い出す。 考えるようなポーズを取ったまま黙り込んでから未だに落ち込んだままのフィルを置いて闘技場へ向かおうと歩を進める。 「ど、どこに行くんだ?」 「カンケーないでしょ」 またもやぴしゃりと言い放つ。 (あれ、何か楽しい) 新たな趣味に目覚める前に、ボクは闘技場へ普段よりは歩行スピードをあげながら向かう。 . |