生存証明、前を向いて

目が覚める。あれは、夢だったのだろうか。なんとなく覚えがあったが夢の内容がおぼろげだったためどうも思い出せない。
ボクは起き上がる。そうだ、あの後疲れて寝ちゃったんだっけ。意識がはっきりとしてきてから思い出したように喉が痛み出す。喉はもうやられたようだ。声なんてものはもう一生出ない、というくらいにまで叫んでいたボクは喉の痛みを感じたまま立ち上がる。
これからどうしようと途方に暮れる。

(…歩こう)

ボクはまたいつものように闇の回廊から出るための出口を探すために歩き出す。どこかに行きたいわけではない。誰かに会いたいわけでもない。むしろもう誰にも会いたくない。
だけど足が自然に動く。どこかへ向かおうと動く。ボクはそんな自分の足に動かされる。


「あ…あ…」


「あーあ」と誰もいない闇の回廊でうんざりしたような声を出そうとしたが、嗄れて痛みさえ感じる喉ではちゃんと言葉を伸ばせなかった。
もう、どうでもいいや。
自問自答は止めにして、これから何しようか決めよう。決める、ああ決めてやるとも。

(そんなん無理だよ…)

とぼとぼと職を失ったサラリーマンのように歩くボクは、ため息をついた。それだけでも喉がヒリヒリする。ケアルでもかけておこうか。やろうと自分の首に手を伸ばすが、途中でだらしなく垂れるボクの手。
もう、どうでもいいや。考えることも瞬きすることも足を動かすことも、息をすることもやめてしまいたい。でも、そうしたらボクが人でなくとも死んでしまう。

(人でなくとも、か…)

もう既に認めたくないと思いながらも認めてしまっていたボクに、自嘲。
もしもここで泣いてしまえばスッキリ爽快できただろうか。泣いたこともないのでわからないが、とにかく体に詰まっているものを出せばスッキリもできるだろう。

マスター。
ボク、どうしたらいいのかわかりません。
このマスターへ向ける気持ちが嘘だったらどうしよう。そう考え込んでしまったらキリがない。
頭を振った。もっとも、頭を振る気力すらないボクはほんの少し首を動かしただけだが。

ボクは生きているんだ。
考えることもできる、喋ることもできる、目で見ることもできる、ご飯を食べることもできる、歩くこともできる、息をすることもできる。誰かを守ることだって、できるかもしれない。ボクが人でなくとも、できることはある、たくさんある。
だからこそ、生きていこう。
初めは辛いかもしれない、できないかもしれない。だけど、そう思っていこう。

鉛のように重かった体が少し軽くなった。例えるなら重金属から軽金属になった程度だけれど。
とりあえず黒コートの埃や砂などを今さら払って落とす。さっきよりは歩幅も広くなったところで、出口は現れた。少し躊躇って止まりたくなるも、足は止まってはくれないらしい。ガンガン行こうぜと言わんばかりの足は、何故か前向きだ。

(前を向いていなければ、前には進めないけれど)

さっきよりは視線をやや上げて、そのままボクは出口に入っていった。


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