混乱、頭痛の意味 闇の回廊を抜けると、吹きすさぶ風がボクの髪で視界を埋めさせた。風が少し弱まり、前を見るがそこには何もない。ただ荒れ果てた地面があるだけ。こんな場所に何があると言うのか。 ボクの手をするりと抜けるように放したヴァニタス。無くなる温もり。 ヴァニタスが歩いていった先には、ゼアノートがいる。ゆっくりと歩いてくるゼアノートはボクに時間の猶予でも与えているかのように余裕だった。 ヴァニタスが少し歩いて振り返る。その隣でゼアノートも止まるが、ゼアノートの視線はボクの目一直線のまま動かない。第一印象と変わらず、気味の悪いやつだ。 「スペース、よく来てくれた」 「来たよ。だから何?」 挑発気味に言うも、相手は気にもしていない。この人に何を言っても無駄な気がしてきた。 「時は近い。来るべき時のため、下準備をしようと思った。故に、おまえをここに呼んだ」 「ふぅん」 興味もなさげに反応をする。 すると、ゼアノートの隣にいたヴァニタスが自分の仮面を掴んだ。何をするのか、と何も言わずに待っていると、ヴァニタスはそのまま仮面を外して見せた。 「な…!?」 初めて見たヴァニタスの顔は、いたって普通の少年だった。 (う、うわ…かっこいい惚れちゃう) パニック状態の頭でそんなことを考える。まだ幼さの残る顔であんな低いせくしーぼいすを出すだなんて、驚きだ。ダメだ、いきなりのことで混乱が解けない。 「二人はよく似ている。顔や容姿が似ているわけではない。だが、二人はよく似ている」 それはよく理解している。何度も思い知らされた。 だから、それがなんだと言うのだ。確かにボクとヴァニタスは似ているかもしれない。だから何だとボクは言いたい。 訝しげにゼアノートの目と目の間辺りを見ていると急に、本当に何の前触れもなく。ヴァニタスがボクに襲い掛かってきた。初めて見たヴァニタスのキーブレード。初めてがいっぱいだ。 (また混乱が解けきらないのか、ボク!) ボクもキーブレードで対抗しようと、キーブレードを出現させてヴァニタスの攻撃を防御をしようと前に構えようとした。 だが、一足遅かったようだ。キーブレードは邪魔だと言わんばかりに弾かれて遠くに飛ばされるわ、ボクは地面に押し倒されるわもう散々だなボク。しかも、ヴァニタスにこんなことされちゃうなんて。ヴァニタスはボクに馬乗りになり両手で握ったキーブレードをボクに向ける。あれ、と引っ掛かる何か。 (前にも、見たことが…?) ズキッと痛む頭が正解だと言うことを物語っていた。かろうじて自由な両手でズキンズキンと激しくなる頭痛を抑えようと両側から押さえるも、痛みは激しくなるばかり。ボクが痛みに悶え苦しんでいる中、ボクにキーブレードを向けているヴァニタスの表情は冷たく何もない。 じゃり、と地面の砂と靴が擦れる音が痛みに堪えながらも聞こえる。ゼアノートの顔が視界に入った。 「見たことがあるだろう?違いはあるが、覚えがあると思わないか?」 「な、に…っ?」 ゼアノートが浮かべた笑み。その表情を見て刹那、頭痛がピークを迎えたようで視界が黒く霞始めた。そんな視界で、見えたのは荒野なんかではない場所。 懐かしい、場所。 そんな気が、した。 |