所詮悪役、お似合いと諦め

「さぁ、受賞式に戻りましょう。受賞者のヴェントゥス、アクア、テラ、スペース、ステージにいらしてください」


名前を呼ばれてテラはステージまで歩いていくが、他の二人の姿が見えない。あまりステージの上まで行きたくないが、せっかく賞品がもらえるというのだから行くことにしよう。屋根からぴょんっと跳んでステージに身を低くして着地した。


「スペース!」


テラがボクの名前を呼んだが、聞こえないフリをしておこう。
ミニーがいつまでも上がってこない二人に「あら」と言う。


「どうやら、他のお二人は欠席されているようですね」


ミニーの言葉に落胆したような声音で「そうか」と呟いたテラ。


「残念そうだね」


「え?」


少しだけ慣れてきた目を合わせること。テラを見上げるようにして視線を交わらせる。


「キミがあんなこと言ったから、いないんじゃない?」


「違…っ」


「勝手に言ってれば良いんじゃないかな」


言ってしまってから後悔した。何でまたボクはこんな悪役みたいなことを。ボクの元からの性格は、そう簡単に治らないようだ。僕とテラはお互いにがっくりと肩を落とす。


「では、お二人が代表して受け取ってくださいね。あなたたちはドリーム・フェスティバルにおいて、たくさんの人からの人気を集めました。よって、ここにミリオンドリーム・アワードを贈ります。おめでとう」


ミニーの言葉を合図に、またもや騒ぎ出して歓声が上がる。やったーとかすごいやーとか聞こえて、テラはステージ前に向き直って「ありがとう」と感謝の言葉を述べた。

(まぁ、テラが代表してありがとうを言ったことにしよう)

一日二回のありがとうはさすがに慣れない。ボクはただその場に突っ立っていた。


「受賞の記念として、あなたをイメージしたあなただけの特別なアイスクリーム、ロッククランチアイスとソーダアイスを贈ります」


ミニーじゃない女性から青色の見たこともないアイスを受け取る。じろじろとそのアイスを見ていると、女性が手招きをした。耳を近づけると女性が囁く。


「あなたをイメージしたアイス、実は二種類できてどちらをあなたに贈るか迷ったの。最後まで決められなくて、今ここにもう一個あるの。受け取ってもらえる?」


みんなに見えないようにボクに見せたアイス。確かにボクだけ二つは不公平だろう。そのアイスを受け取ると、女性は人差し指らしき指を口に近づけた。ボクも同じように人差し指を口元に近づけて受け取ったアイスを後ろに隠す。溶けないか心配だ。


「どんな味なんだろ?」


「食べてみて!」


ボクはその女性を、テラはミニーを見てみると二人とも頷いてくれた。それを見てからボクとテラは同時にかぶりつく。


「いかがですか?」


「うまい、俺の好きな味だ」


「おいしい」


今まで味わったことのない爽快感のある味だ。言葉での表現が難しい味に、ボクは首をかしげる。すると、ミニーは嬉しそうに愉快そうに笑った。


「喜んでもらえてよかったです」


またも騒ぎ立ったみんなに、ボクはまたそのアイスをかじった。


「本当に、おいしい」


その言葉を残して、誰に見つかることなく闇の回廊へと入った。



二つのアイスを交互に眺めてから、まずは青いのから食べちゃおうともう一方が溶けてしまう前にかじっていく。
とりあえず腹に収めてからもう一方をかじってみる。パリッと中のアイスをコーティングしていたらしいチョコレートが気持ちのよい音を出した。チョコのコーティングがされていたのはどうやらバニラアイスのようで、とてもおいしい。

もう一かじり行こうと口を開けたその時。向こうから誰かが歩いてくる。その姿は見覚えがあった。それもそのはず、歩いてくるのはあのヴァニタスだったからだ。


「ヴァニタス。ほら、キミも食べるといいよ」


と、そう言ってアイスを向けるが反応はない。ボクの前で止まったかと思えばアイスを握っていた腕を乱暴に掴む。その衝撃でボクの手からアイスが落ちた。更には青いアイスを支えるように刺さっていた棒も落としてしまう。


「ヴァニタス!離して!」


ボクがもらったアイス。

(あぁ、そっか…)

ボク、嬉しかったんだ。
ミリオンドリーム・アワードに選ばれて、人気者だと言われて。その証のアイスを落としてしまって、ボクは悲しんでいるんだ。


「…バカみたいだ」


所詮、ボクにはこれがお似合いなんだ。
抗うのをやめて、ボクはヴァニタスの手を掴んで、握った。


ボクより温かい手のひら。
胸の辺りが締め付けられるように、痛いよ。


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