絶対零度、利益の無い仲裁

出ると、何だかコミカルな場所に出た。ベンチやらポストやらがあって、なにやら見覚えのある形がたくさんある。丸三つのシンボル。これはどれも、ミッキーに似てやしていないかだろうか。いや、考えすぎだろう、と頭を振ると誰かの足音が近づいてきた。近付いてきたのはなんと、ミッキーをメスにしたような生き物のようだ。


「ようこそ、ディズニータウンへ。入場パスはお持ちですか?」


ぽかんとしていたようで、我に返ったボクは彼女にヴェントゥスからもらった永久入場パスを見せる。ここが巷で噂になっているらしいディズニータウンか。
パスを見せると彼女は笑って頷く。ヴェントゥスがくれたのは偽物でなく本物だったようだ。もしこれが偽物だったとして、今はニコニコと笑ってくれている彼女が豹変したりなんかしちゃいそうで怖かったんだ、内心。


「私はミニー。あなたは?」


「スペース」


「スペースもこのディズニータウンを大いに楽しんでくださいね」


「そうする」


頷きながらそう言うと、ミニーは微笑んでどこかへ行ってしまった。
まずは何をしようか、と真剣に考え込んでいると、何やら騒がしい。小さなアヒルっぽい子供が三人狼狽えながら機械を見ている。少し気になる、やっぱり好奇心には勝てないらしい。


「どうしたの?」


「機械が壊れちゃったみたいなんだ」


機械を見てみると、何も壊れているところはないように見える。色んなところを触ってみるが、反応は全くない。


「これは何の機械なの?」


「アイスを作るマシンなんだ」


「もし直してくれたらお礼にアイスを食べさせてあげるよ」


アイス、その単語に顔を上げる。アイスなんて久しぶりだ。マスターから一度貰って食べたが、しばらく食べていない。考える必要もないだろう。


「頑張ってみる」


と、言えば三人は嬉しそうに笑いながらはしゃぎ出した。微笑ましい三人を横目に機械を色んな方向から見てみる。

(とは言ったものの、機械は得意じゃないんだよな…)

触る機会なんてものはほとんどと言っていいほどなかったしな、とそんなことをぼんやり考えながら触っていると何かに触れた。その何かを見てみると、何やらスイッチのようだ。押していきなり爆発はしたりしないよな。そう信じながらスイッチを押してみると、反応を示した機械。


「動いた!」


「ありがとう!」


「電源入ってなかった」


ボクがそう言えば、仲の良かった三人が言い争いを始める。誰のせいだとかなんとか言い争っている三人を見ていると、あの仲良しトリオを思い出してしまう。


「ケンカはやめろ」


ボクの仲裁にみんなの視線が集まる。
どうしてボクはこのけんかを止めようと思っているんだろう。ボクには何の得も何もないのに。


「醜い」


ボクの一言に今まで賑やかだったディズニータウンが静まり返った気がした。その場にいた全員が黙り込んで、ボクを見つめる。

(なんだこの空気、寒すぎるだろ)

絶対零度の空気に、ボクはどうしろと言うのか。


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