夢、冷え切った体温

夢を見た気がする。
目を開けると、そこは闇の回廊で。闇の回廊に入ってから眠りこけたんだ、と思い出すのにそう時間はかからなかった。
どんな夢を見ていたんだっけ。思い出そうとすればするほどに遠ざかっていく気がしたので、どうでもいいやと諦める。

足は畳んで座り込んだまま起き上がり、ごしごしと寝起きのせいでぼんやりとしている視界をはっきりさせるため目を擦った。「よいしょ」と勢いをつけて立ち上がってくるりと回って辺りを見回す。

(またヴァニタスがいない…)

それもそうか。だって、彼がせっかく誘ったのにそれを断ったのだから。今さら後悔をしているわけではなく、今もボクの選択は間違っていないと思っているわけだが。
ヴァニタスが握ってくれた手のひらと、ヴェントゥスが握ってくれた手のひらとを交互に眺める。

(どっちも、温かかった)

両手を自分の頬につけてみると、自分の両手はひどく冷たい。まるで、死人みたいに。そんな手を握ってくれた人がいる。こんな、ボクの手を。


『自分を卑下してはいけないよ』


優しかったイェン・シッドの手のひらとマスターの手のひら。そんな手のひらにボクも、なれるかな。


『おまえを必要としている』

『スペースのために!』


闇の力に溺れたボク。そんなボクにそんなこと言ってくれる人がいる。とても、少ないかもしれない。だけど、いてくれるんだ。

ボクはボク自身を抱き締めた。コート越しに伝わるボクの体温は、手のひら同様にひどく冷たい。

謝りたい。
アクアとヴェントゥスに、早く。


途端に開いた出口。自分から手を離して、ボクは足を動かした。
道の先へ。


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