亀裂、疑心と脆いもの 着いたときにはもう巨大アンヴァースはボロボロで、もう今にも倒れそうだ。 そして、やっぱり悪い予感的中。仲良しトリオが何故か勢揃いのようで、今まさに最後の一撃をかまそうとしている三人の中へボクも乱入。 「アクア!」 「スペース!?」 「一緒に!」 アクアは頷いてボクと同時に飛び上がった。そのまま二人で平行に切り下ろす。タイミングは完璧。 そして、その次にテラとヴェントゥスが間断なく切りかかる。みんなが着地して、アンヴァースは落下。黒と紫のもやを出しながら、そのまま消えていくアンヴァースを肩を上下に動かしながら見下ろしていた。 「やったな」 「みんな一緒だからね」 「当たり前だよ!」 そう言いながらテラとアクアはヴェントゥスの元へと駆けていく。 ボクは頬に一筋伝う汗にくすぐったくなって腕で乱暴に拭って仲良しトリオの元から離れようとした。と、また手を掴まれる。これで二度目か、と思いながら後ろを見てみるとヴェントゥスがボクの手を掴んでいたようだ。 「どこ行くの?」 「どこって…」 純粋無垢なヴェントゥスの笑顔が眩しい。ヴェントゥスは「ほら」とボクの手を掴んでいない方の手に握っているものをボクに見せた。 「それは?」 「ディズニータウンの永久入場パス。スペースにあげるよ」 「テラとアクアにあげればいいでしょ」 「テラとアクアにはもうあげた。これはスペースの分」 「ボクの?」 「うん。本当は保護者用と俺とで三枚だったんだけど、無理言ってもらっちゃった。スペースのために!」 なんともかわいいことを言うやつだ。いらないと捨てる理由もないので受け取ってやってから、今まで片手で数えられるほどしか言ったことのない言葉を呟く。 「……ありがとう」 すると、ヴェントゥスは嬉しそうな満面の笑みを見せてくれた。そんなに嬉しいことだったのだろうか。 ニコニコと笑ったまま「どういたしまして!」と言ったヴェントゥス。ヴェントゥスはボクの手を引いて、テラとアクアがいる元へと連れていく。待ってましたと言わんばかりに二人も笑顔を見せながらボクを見て、誰であろうと俯くこんな状況でボクは俯いた。 「ヴェン、スペース、こんなところまで来て…」 「大丈夫だよ。俺、テラのことを変な風に言う仮面を被ったやつだって倒したんだ」 ヴェントゥスの言葉にボクとテラは過敏に反応する。テラはそのままヴェントゥスの肩に手をのせた。その衝撃でかボクの手を握っていたヴェントゥスの手が放れる。少し名残惜しいと感じてしまったのはどうしてだろう。 「仮面の少年に会ったのか?」 「あ…う、うん」 テラの豹変に驚いている様子のヴェントゥス。テラは小さく「ヴァニタス」と彼の名前を呼んだ。ボクの目線の先はテラへ。何故テラがヴァニタスを知っているのか。 テラはヴェントゥスの肩から手を離して、諭すようにヴェントゥスの目を見据える。 「ヴェン。やはりおまえはアクアとスペースと帰るんだ」 「いやだ。俺はテラとアクアと一緒にいく」 「ダメだ。俺たちにはやらなければならないことがある。それは危険が伴うことだ」 「テラのやらなければならないことって何?なんだかマスターの任務じゃないみたい」 「道は違うが闇を消すことに変わりはない」 アクアは「そうかな」と納得いかなそうに言う。ボク、今ここにいなくてもいいんじゃないかな。てかボクまだ帰る気なんて更々ないんですけど。 「テラが他の世界でしてきたことを見て思ったの。闇に近付きすぎているんじゃないかって」 「何言ってんだよアクア!テラが闇に堕ちるはず――」 「俺のことを監視していたのか。それがお前へのマスターの命令か?」 ヴェントゥスが違うとアクアに言ってほしそうな視線を送る。そんなヴェントゥスと疑心の視線を送るテラの二人分の視線をそらすように顔を背けるアクアは「それは…」と呟く。それから黙ってしまったアクアは、何の言い訳もしない。それに落胆したヴェントゥスは「そんな」と呟いた。 「そうか」 「テラ!」 納得したような声で言ってからボクたちに背を向けたテラ。テラに手を伸ばして名前を呼ぶヴェントゥスだが、世は無常らしい。 テラは声を荒らげて「来なくていい!」と言ったのだ。あんなに家族みたいに仲のよかった仲良しトリオが、こんなことになるなんて。 「俺たちは別々の道を行くんだ」 「テラ、違うの!マスターの真意はあなたへの疑心じゃない!あなたのことが心配で――」 アクアの言葉を聞こうともせずに歩いていってしまったテラ。仲良しトリオのすれ違い。 (ほら、やっぱり) 友情なんて、繋がりなんて、脆すぎる。 |