花の香り、轟音の先へ

そよそよと吹く風と、ふわふわとくすぐるボクの髪。起きてる、と自分でそう思うのに時間はかからなかった。
イェン・シッドがいた塔とは風の有無からして違うが、何より匂いと明るさが違う。ボクの頬だけでなく鼻腔もくすぐる花の香りは白雪が摘んでいた花とは少し違うようだ。
いい加減目を開けよう。と、目をうっすらと開けると視界に必ず映っていたフードの黒がない。フードを被ってないのか、と思ってすぐに黒いものが視界を埋め尽くした。それに思い切り開眼。

黒くて丸い耳が二つ、横ではなく上についていて。普通の人では考えられない大きくてつぶらな瞳。頭でっかちでボクの身長の約二分の一程度の身長。
一体どちらさんですか。


「起きたみたいだね」


「…えっと」


「僕ミッキー。君は?」


「スペース」


上半身を起き上がらせて自分の名を名乗ると、ミッキーは「よろしく」と言いながら手を差し出した。ボクはあまり状況を理解できないまま「あ、あぁ…」と曖昧そうに返事をして差し出された手を握る。
それから立ち上がると、闇の回廊を通った記憶もないのに別の場所に来ていたようだ。あのイェン・シッドの光でここまで来たようだが、いきなりなんでもありか。
花が咲いているところでボクは体を横たえていたようで、黒コートやボクの髪から花の匂いがする。


「ここは?」


「ここはレイディアントガーデンだよ」


ボクは「ふぅん」と自分から質問したのに素っ気ない態度を取ってしまい、内心しまったと思ったが相手は気にしていないみたいでよかったと安堵のため息。
辺りを一望をしてみるに、花壇四つと噴水四つの広い場所にボクらはいたようだ。
そうだ、とイェン・シッドがここで大切なものがわかると言っていたのを思い出す。


「ボク、行くよ」


「僕もそろそろ行かなくちゃ。また僕たち会えるよね」


何でそんなこと言ってくるのか、意味がよくわからないままにミッキーに向かって頷いてから背を向けて歩き出した。


長い階段を上っていくと、大きな建物がそびえている場所に出たようだ。その扉の前には二人の男性が立っている。この先に何があるかは気になるが、人がいるから引き返そう。そうだ、そうしよう。
と、踵を返した時。
聞こえる聞こえる、階段を上る足音。感じる感じる、光。これはまさしくヴェントゥスの気配。
このままじゃ鉢合わせになってしまうと思い、それだけは勘弁してほしいときょろきょろと辺りを見回してボクは猛ダッシュして高台から飛び降りた。膝を折って衝撃を吸収しながら着地してから轟音に空を仰ぐ。大きなアンヴァースが空にいて、そいつは向こうへと飛んでいく。ボクは嫌な予感しかしないがそのアンヴァースが飛んでいった方へと駆ける。


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