白い光、温かな温もり

「どうしてボクをここへ?あの白い光、キミが?」


「そうだ」


「何故?」


「あそこに行くのはまだ早い。それに、おまえは嫌がっていただろう?」


あの白い光も本当は嫌だったけれど。でも、この人の好意は受け取っておこうと小さく頷く。
まだ早いとはどういうことなのだろうか。いずれ、行ける日が来るのだろうか。
一人で考え込んでいると、イェン・シッドは再び椅子に座った。


「ところで話は変わるが、おまえには大切なものがあるか?」


突然何を言うのだろう。ボクは大して考えないで自分の大切なものを口にする。


「大切な、もの。強さ」


ボクが答えるとどうやら望んだ答えではなかったようで、イェン・シッドは首を振る。ボクが首をかしげると、ボクの胸元を指差した。


「その鈴と同じ、大切なものだ」


この人にはなんでもお見通しか。
鈴を大切にコートの中から出して見せると、イェン・シッドは頷く。強さだって、ボクにとっては大切なものなんだけど。それとはまた別な大切なもの、ということだろうか。


「今はわからないとしても、いずれわかる。お前が一番に大切なものとは何か」


「ボクの、大切なもの…」


そう呟くとイェン・シッドは微笑んで大きく頷いた。
よくわからない。“大切”というのをあまり深く考えて来なかったが、今イェン・シッドの話を聞いて意外に深い言葉なんだなと思ってしまう。


「次にレイディアントガーデンへと向かうがいい。きっとわかるはずだ」


「大切なものが?」


頷いたイェン・シッドはボクに人差し指を向けた。何かと思えば、ボクの方へ一直線に光が飛んでくるではないか。それを防ぐ間もなく、ボクの体は光に包まれる。

遠くなるイェン・シッドの気配。優しいマスターみたいなイェン・シッド。

(あぁ、そっか)

ボクはマスターが好きなのかもしれない。今まで感じたことのないこの感情は、それなのかもしれない。

マスター、ボクようやくわかったんだよ。
マスター、ボクを誉めてくれるかな。
優しくて大きくて、温かい手のひらで、ボクの頭撫でてくれるかな。無表情で視線も合わせようとしないボクなんかのために、撫でてくれるかな。


白い光に妙な安堵感を覚えた。おかしいな、ボクは闇の力に溺れたはずなのに。でも、なんかどうでもいいや。
温かな温もりに包まれながら、ボクは目を閉じる。そして、そのまま夢に堕ちた。


よく覚えていないけれど、なにか優しい夢を見た。
そんな気が、したんだ。


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