この感情、解読不能

うっすらと開いていく視界に映ったのは旅立ちの地で見たみたいな満天の星空。
そんな星空を見ていると、今にも溢れ出してしまいそうなよくわからない感情に包まれる。溢れ出てしまいそうだけれど何かに塞き止められているような感覚にボクは「あ…」と今すぐにでも絶えてしまいそうな声を漏らした。

いつまでもこんな状態でいるのはいけないと思って起き上がると、頭がガンガンと痛んでぐわんぐわんと揺れる。
一体何が起こったんだろう。ここはどこだろう。
頭を押さえながら前を見ると、その先の地面がない。地面の終わりの先には橙色の無限に続きそうな地面とも呼べない空間が広がっていた。ただ呆然と、ぽかんとこの光景を眺める。
とりあえずちゃんと立ち上がって背後を見てみると、何やら高い塔が立っていた。せっかく来たんだから入ってみようか、と思いながら暇潰し程度で行ってみることにしたのだ。



長い階段を上った先には、青い服と帽子を被った老人がいた。老人は椅子に座っていて、ゆっくりとした動作でボクを見る。


「待っていたぞ、スペース」


何故僕の名前を。不審と警戒心を抱きながら話に耳を傾ける。


「わしはイェン・シッド。何故わしがおまえの名前を知っているのか気になっているようだね。おまえのことはエラクゥスから聞いているよ」


「マスターから?」


笑みを見せるイェン・シッドと名乗る老人は頷いた。


「わしとエラクゥスは古い友人だ。昔からエラクゥスがおまえの話をしていた」


「ボクの…?」


「あぁ。エラクゥスが言っていた。スペースはとても優しい子だと、他人を思いやれる良い子だと。ただ、ちょっと素直ではない、ともな」


まただ。また何かが溢れ出てしまいそうな感覚が身を包む。
唇を噛みながらフードを取る。ボクの視線は落ちたまま、イェン・シッドの首の辺りまでしか視線が上がらない。


「嘘だ。戯言だ。でたらめだ。だって、マスターはボクなんか…嫌いなんだから」


ずっと笑顔なんて向けたことなんてなくて。マスターが闇の力は滅ぶべきだというのに、ボクは闇の力に溺れて。今こうして外の世界にいるのだって、いけないことなのに。今頃マスターはボクのことを嫌いになっているだろう。


「子を嫌いな親なんか居はしないんだよ」


「ボクは本当の子じゃない」


マスターに拾われただけの、ただのお人形。イェン・シッドは首を振って、椅子から立ち上がる。


「そうであろうと関係はない。エラクゥスはおまえを本当の子だと思っているだろう。だから――」


「自分を卑下してはいけないよ」と言った言葉も、ボクの頬に触れた手も、優しかった。そして、温かかった。
ボクを拾ってくれたときのマスターみたいな、手。その温かくて優しい手に触れると、すごく落ち着いた。よくわからない感情にボクは支配されていたが、不思議とそれでも良いかなと思えた。


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