勝手な自分、出ぬ涙

さっきまでのシリアスはなんだったのか、と思えるほどのこの和やかな雰囲気の中にボクはいた。七人の小人に囲まれてあれやこれやと質問されてうんざりだ。
質問されている合間に白雪と名乗る女性に謝ると快く許してくれた。なんと優しい人か。さすが純粋な光の心の持ち主。
未だ続く質問攻めにうんざりしていると家の外から足音。ヴェントゥスかもしれない、と取っていたフードをまた目深に被る。


「大丈夫、近くに魔物はいないよ」


案の定、ヴェントゥスだった。ホッと安堵のため息をつくとヴェントゥスは「あ」と声を漏らして軽く仰け反る。


「またおまえか、泥棒め!なんでおまえがここにいるんだ!」


僕たちとヴェントゥスの前での態度の差にありもしない笑みを浮かべる。ヴェントゥスが泥棒なんてあり得ないから、何かの勘違いだろう。


「待って、私彼に助けてもらったの」


「白雪姫、騙されてはいけません」


「さっさと出ていけ!」


すごい言われ様だ。信用のしの字もない言葉にヴェントゥスは項垂れた。
怒鳴ってばかりのうるさい小人らにボクはいい加減ぷっつんしちゃいそう。


「うるさい」


フードを目深にかぶっているせいで顔の見えないボクから出たのはそんな言葉。
集まる視線にボクを囲む小人を掻き分けてヴェントゥスのすぐ前まで歩く。それから白雪に向けて手を出す。意味がわからないようで首をかしげる白雪は一応女のボクでもかわいいと思った。


「花束を持ってきてやった。礼もないのか」


「白雪姫に何てことを言うか!」


「うるさい、黙れ。ほら」


白雪は今度は恐怖なんかではなく狼狽の表情を見せる。その表情を見るに、何も持っていないのだろう。
早く何か寄越せと言わんばかりの行動に白雪は俯き、小人たちは激昂して何かを言おうと口を開く。


「スペース?」


だが、口を開いたのは白雪でも小人でもなく、ボクの後ろにいたヴェントゥスだった。
ボクは勢いよくヴェントゥスの方を振り返る。眉根を下げながらボクを見つめるヴェントゥスにボクは視線をそらす。
このままここにいたら元々掘っていた墓穴をさらに掘ることになるだろう。そう考えたボクは白雪からの見返りはもういいことにして小人の家を飛び出した。


「待ってよ!」


そう言って手は伸ばすが追いかけては来ないヴェントゥス。

やっぱりその程度か。ボクに向ける絆なんてその程度か。当たり前だ、ボクが避けていたのだから。
でも、今こうして飛び出したのがボクじゃなく、テラかアクアだったらヴェントゥスは必死に追いかけてくるだろう。
ボクなんて関係ないんだろう。ボクなんてどうでも良いんだろう。ボクなんかよりあの二人の方が段違いに大切なんだろう。

わかってる、わかってる、わかってるんだ。
こんなの、ボクの勝手なわがままと勝手な絆なんだって。ボクなんてボクなんてボクなんて。いなくたって――


闇の回廊を出して飛び込んだ。ただひたすらに駆けて駆けて駆けた。疲れて、ボクは座り込む。出もしない涙にボクは目を閉じながら、両手を地面につく。
泣いてる。
心の中の、ボクが。

足音。
この闇の回廊の中で会えるのは少ない。
足音が止まる、ボクのすぐ前で。少し顔を上げると目に入る、足元はあの人の。


「ヴァニタス…!」


泣いたことなんてないのに、今にも泣きそうな声で彼の名を呼んだ。彼はまた無言でただ立っていて、けれどそれだけでボクの心は救われて。
ボクは立ち上がって彼に抱きついた。揺れたボクの大切な、音を無くした鈴。
彼はただボクに抱き締められていた。


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