未知の世界、響くノイズ

黒い歪みも何も現れない。どこが端なのかもわからないこの場所でただ歩き続けていた。
いつまで歩き続けていたのだろう。この闇の回廊内と外の世界の時間軸がぶれていたらどうしよう。ボクが闇の回廊から出たとして、何十年もたってたらどうしよう。そうなってたら怖いな。
早く道よ現れろ、と唱えながら歩いていた。

音も何もない闇の回廊の中で、小さく音が聞こえる。ざわざわと人がざわめく音といろんな靴で鳴らす足音。音量が小さくてよく聞こえない。その音に集中するため、足を止めて目を閉じた。

その直ぐ後、まさに直後と言うに相応しいほどの早さでボクを襲った頭痛。ボクは頭が割れそうで嘔吐感も襲ってくるという最悪な展開に心底絶望した。
頭を両手で押さえながら頭痛と嘔吐感に堪える。堪えながらもさっきまで全然聞こえてこなかったざわめきと足音のせいで頭痛が三割増し。全身の震えが止まらない。
ふ、と体の力が抜けた。全身のスイッチを一気にオフにしたかのような感覚だ。ボクはそのまま受け身もとらず倒れ込む。
何かに誘われるように目を閉じる。



見たこともない世界が視界一杯に広がっていた。
人がたくさんいて歩いていて、見たこともないものが道路を走っていて。緑色のライトが点滅したかと思えば赤色になって。
未知の世界。こんな世界があるなんてボクは知らない。

ボクは突っ立っていた。円柱の細長い柱の隣で、ただ立ち尽くしていた。この世界の人とは全くとはいえないが異様な服装をしているボクを見もせずに過ぎていく人たち。
呆然とそんな光景を眺めていると、ボクの前を背が小さな少女二人が駆け抜けていく。楽しそうに走っていく五歳程度の少女らの後ろ姿を眺める。
その少女らが角へと入るために横顔を見せた。だが、その少女二人のうちの一人の横顔を見ようとしたとき、ノイズがボクの視界を支配したのだ。そのままテレビの電源を切ったように、ボクの意識はブツリと音をたてて切れた。





「ん…」


意識が戻った頃にはボクは闇の回廊にちゃんといた。さっきの未知の世界とは違ったようだ。
このまま寝てようかな、と再び目を閉じようとしたが、それはいけなかったらしい。両肩を抱き上げて起こされたボクの顔を隠していたフードがとれて視界が広がる。ぺたりと座り込んだ状態で上半身を起こされたボクはまたも呆然。
起こしたのは誰だろうと後ろに顔を向けてみると、ゼアノートから黒コートを受け取ったときにゼアノートの隣にいた少年がいた。


「誰?」


「ヴァニタス」


ちゃんと答えてくれた少年、ヴァニタスはボクを見下ろす。立ち上がってみるともう少しで身長が届くかな、程度の身長だった。
ボクの横をすり抜けて歩き出したヴァニタス。


「ヴァニタス」


名前を呼んでも歩を止めてくれない。あの野郎、ボクが大人しいからって。
でも、ヴァニタスとボクは似てる気がした。説明してって言われたら困るけど、そんな気がするのだ。


「ボクスペース。また会おうよ」


それだけ言うとヴァニタスは闇の回廊の出口を出してそちらの方へ歩いていく。出口が閉まる前に顔だけ出してボクの方を見て、首を少し傾けるヴァニタスにボクはふっと息を漏らす。笑みを漏らそうとしたのだが、できないことに気付いて無駄に虚しくなる。それからヴァニタスもヴァニタスの出した闇の回廊の出口も消えてしまった。

また会いたいな。

ボクの方も闇の回廊の出口が現れたようだ。時間軸がぶれていないことを願いながらボクも闇の回廊から出た。


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