温度、小さな警告

ボクはキーブレードを取り出してオーロラ姫に向けた。マレフィセントは早く早くドキドキワクワクしながらボクを見ているのだろう。さーて、そろそろか。


「…なーんつって」


と、無表情で言いながらキーブレードを後ろにいる人外に向けて振った。するとマレフィセントは心底驚いたようにしてギリギリボクの不意打ちをかわす。ちぇ、と心の中で呟いてからキーブレードの先をマレフィセントへ。


「キミなんかに操られるほど弱くない」


決まった。ボク完璧。惚れちゃう。
なんてまたくだらないことを考えながらマレフィセントをチラリと見てみると、マレフィセントの顔は憎悪に満ちていた。

(おー、怖い怖い)

実際はほんの一瞬だけでも操られてはいた。意識がほんの一瞬だけなくなっていたし。その辺は褒めてやらないこともない。
マレフィセントは怒り全開のオーラを放ちながら、また口許に笑みを浮かべる。


「まぁいい。おまえにはさほど期待してなかったからね」


「………」


こいつ、何強がってやがる。心の中と表との温度差に自嘲。


「そのテラとかいうのに期待しようかねぇ」


「テラは、弱くない」


何でボクテラを庇ってるんだ。別にテラとは何の関係もないのに。


「それが友情ってやつかい?」


「違う」


すっぱり言った。なんだ、やっぱりさっきのはちょっとした気の迷いというか、ただ間違えただけか。安心安心。


「おや、違うのかい。だけど、あの男を信じてていいのかね?」


イラッ。
イラッと来ました、久しぶりです。
ボクはキーブレードを振り上げてマレフィセント目掛けて振り下ろした。手応えは、ない。
マレフィセントは緑の炎となって消えていった。気味の悪い笑い声を残して消えていってしまったマレフィセント。橋のところで急に姿がなくなったのはこういうことだったのか。怖がって損した気がする。
ボクと眠っているオーロラ姫だけになってしまって、ボクはため息をついた。ここには何もないように思える。無駄足だったか、とオーロラ姫の元に歩み寄って彼女を見下ろす。彼女の肌に触れてみるも、黒の手袋越しじゃあまり温度がわからない。


「キレイだね」


そう聞こえるはずもない彼女に言い残してから部屋を出た。


部屋を出てすぐの廊下を歩いていると、足音と共にある人物が現れる。今度はちゃんとした人だ、よかった。しかも、見覚えのある顔みたいだが。

(テラだ…)

やっぱりよくなかった。ばったり会ってしまうとは自分が情けない。
今のボクはちゃんとフードを被っていて誰かは判別できないはずだ。そのまま通りすぎようとするも、また遮られた。


「おい」


話しかけないで、と何度も願ったのに無駄だったようだ。ボクは足を止めて俯く。


「君も眠っていないみたいだが…、他の世界から来たのか?」


ボクの必殺技黙殺。
何も言わないボクに困ってしまったのか頭を掻くテラ。仕方ないな、と思いながらボクは顔を上げた。


「気を付けて」


聞こえるか聞こえないかのボリュームでテラに言ってやった。聞こえたか聞こえなかったは気にせずにボクはまた歩き出す。テラは引き留めないでボクを見送る。

何故か至るところがむず痒くなって、コートの下にある首から下げている鈴を無意識にいじっていた。


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