捜索開始、人外現る

闇の回廊の黒い歪みにおずおずと触れてみた。すると、黒い歪みは黒い光のようなものを発してボクを包み込んだのだ。ボクは思わず目を瞑る。

闇の回廊の中にいるはずなのに、なんだか明るい。外に出たのだろうか、とそっと目を開けてみるとボクは長くて幅も広い橋の上に立っていた。その橋の続く先には大きなお城。本の中でしか見たことのない城にボクは無意識に「はー」と呟く。
城から視線を戻して橋を進もうと前を見ると、真っ黒な地面に付くほど長いマントを着ていて、肌はもう病気を通り越したような色をしていて、緑の玉がついた杖を持っている人っぽいのがいた。

(き、気味が悪い…)

あれを人とは呼べないだろう。できればただ何もなくあの仮に人ならざる者という意味を込めて人外と名付けようの横を通りすぎたかったが、そうもいかないらしい。
人外はボクが近寄ると振り返った。せっかく振り返ったのに無視するのは例え人外でも少しだけかわいそうな気もするため、ボクは足を止める。


「おや、おまえはどうして眠っていないんだい?この国の者はみんな眠りについているはずなのに」


「何者?」


もしかしたらあの仲良しトリオもここに来たり来るかもしれない。あまりボクが外の世界に出たことを知られたくない。とりあえずフードを被っておいてよかったと、一安心。だが、きっとボクの気配がぱったりと消えたのでマスター・エラクゥスがそれに気付いてテラとアクアに捜索願いを出したりもしてるだろうが。
それよりもこの人外はちゃんと人語を話せたみたいだ。よかった、意味不明な言語で耳をおかされずに済む。


「私はマレフィセント。この国の新たな主だよ。おまえこそ見かけない顔だが、どこの誰だい?」


「…スペース」


あ、と言ってしまってから気付く。誰にもバレたくないって思ったばかりなのに言ってしまった。
マレフィセントはマントを翻してボクに背を向ける。


「おまえは何が望みなんだい?」


「望み?」


「わざわざここに来たのに何もないって言うのかい」


そう言えば、ゼアノートに世界を渡る力を貰ったものの何をしたいのか自分でもわからなかった。ただあの場所に飽き飽きしてどこかに行きたかっただけなのだ。それに、行けそうで行けなかった闇の回廊にも入ってみたかったし。その目的は達成されたが。
ボクは少し黙り込んだ後、口を開く。


「大切なもの、探しに来た」


あながち間違っちゃいない。強さだって大切だし、ボク自身だって大切だし。ボクの片割れだって。
すると、マレフィセントはつまらなそうな顔をしてから何か思い付いたように笑う。

(あの、隠れているつもりでしょうけど…見えてますよ?)

マレフィセントはボクの心の声なんかに耳を貸さないでまたボクの方へ体の向きを変えた。いや、心の声が聞こえてたら嫌だけれども。


「そんなもの知らないね。だけど、気になるのなら調べてきたらどうだい?もしかしたらあるかもしれないからね」


この国の現主らしいマレフィセントに許可をもらい、とりあえず城へと歩き出す。と、さっきまであったマレフィセントの気配が消える。
後ろを振り返ってみると、さっきまでいたマレフィセントが消えていた。なんだったんだあいつは。
まあいい。とりあえずあるのかもしれない大切なものを探しに行こうと止まってしまった足を再び動かし始めた。


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