試験開始、力の協力 試験会場へと来てみると、いつの間にやら逆の方へ去ってしまったはずのゼアノートが椅子に座っていた。 (あの人、テレポート使えたんだ…) 今度教えてもらおう、と思いながら歩いていくとマスター・エラクゥスがヴェントゥスの隣に行くようにと促した。ボクは頷きもせずに無言でヴェントゥスとの距離を開けて並ぶ。ヴェントゥスはボクを見てから俯いてしまったようだが、ボクは見ぬフリ。 マスター・エラクゥスが椅子から立ち上がったのを見てから背筋をピンと伸ばしたヴェントゥスを横目で見ながらボクは突っ立ったまま。 「これよりマスター承認試験を行う。此度は候補者が二人であるがいずれかの優劣を問うものに非ず。キーブレードに選ばれし者としての心のありようが試されるものである。この久しい若きマスターの誕生に際し、幸いなことに遠方よりマスター・ゼアノートが足を運んでくれた」 マスター・エラクゥスがゼアノートに顔を向けるとゼアノートは軽く頭を下げて見せた。みんなも頭を軽く下げてから、ゼアノートの視線がボクへと。ボクは一秒だけ目を合わせてから目をそらす。 「二人とも心して臨むように」 マスター・エラクゥスの言葉の後に言葉を揃えて「はい」と言ったマスター承認試験受験者のテラとアクア。ヴェントゥスは楽しみで仕方ないのか背筋をピンと伸ばしたままに目を爛々と輝かせているように見える。幸せな奴だ。 「では、始めるとしよう」 マスター・エラクゥスはそう言ってからキーブレードを構えた。意気を込めて「ふん」と言えば、現れる大きさは中くらいの光の球。基準がどれくらいなのかは自分でも不明だが、小さくもなく大きくもない大きさだと言うことだ。 感じた視線。 ゼアノートが真っ直ぐにボクを見据えている。ボクは小さく頷いてから、見えないように微量の闇を体の外へ出す。そしてそのまま地面を通ってゼアノートの元へ。これくらいの闇の力の扱いは軽い。ゼアノートはボクの闇を受け取ってから小さく右手を動かした。 ――来る。 そう思った直後にさっきまで輝いていた光の球が黒に包まれる。闇の力。 さすがに急の出来事に少し狼狽えているテラとアクア。 滑稽だ。 だが、それを見ながらも闇に包まれた光の球へと飛び込んでいく二人。 (頑張るなぁ…) ボクはふいっと二人から視線を外す。 「ヴェン!スペース!」 二人が呼んだのは隣にいる仲良しトリオの一員のヴェントゥスだけではなく、ボクの名前もだった。二人に戻る視線。ヴェントゥスはキーブレードを強く握りボクとヴェントゥスの方へと近寄る元光の球を切ってみせる。 「俺のことなら大丈夫!テラとアクアは試験に集中して!」 「だってさ」 と、とりあえずボクも付け足しておく。二人は背中を仲間に預けながら元光の球の集まりに目を配っている。 「でも、ヴェンとスペースはここにいたら危ないわ!部屋に戻って待ってて!」 「いやだ!俺、楽しみにしてたんだぞ。テラとアクアがマスターになるのをこの目で見届けたいんだ」 「ボクだって、弱くないし」 キーブレードを取り出してヴェントゥス同様に逆手で強く握って構える。テラはそんなヴェンだけでなくボクも見てから笑みを溢す。 「ヴェンとスペースなら大丈夫だ。俺たちと一緒に修行してきたんだからな」 「うん!」 ボクは修行なんてあまりしてないんだけどな。ああ、でも闇の力を操る修行はしてたかな。またもぼんやりと考えてから元光の球に目をやる。ボクがせっかく闇の力をあげてできた元光の球なんだからあまり戦いたくはないが、協力はもうしたし世界を渡る力は貰えるだろう。 「気を付けてね、ヴェン、スペース」 |