放置推奨、大声の飽き飽き

「いただきます」


みんなで声を合わせてそんなことを言ってテーブルの上にあるごちそうに手を付けだした。まあ、ボクはみんなのその挨拶らしきものの前に昼食に手を付けだしていたわけだが。それを以前行儀が悪いと言われたが、そんなことはどうでもよかった。そこに料理があるのに食べないわけがないだろうに。
ちらりと視線を料理から上にあげてみると、そこにはみんながいた。ボクらのマスターであるエラクゥス。がたいが良く長身の仲良しトリオの一人、テラ。優しい顔つきをしているまたしても仲良しトリオの一人、アクア。そして、先ほどボクを起こしに来てくださったこれまた仲良しトリオの一人、ヴェントゥス。改めて眺めてみると家族のようで。ボクには関係のない話だけれども。ボクはそこに置いてあった水を飲みほした。
なにやら話が盛り上がっているようだ。どうやら今日の修業のことについての話らしいが、ボクは欠席していたので全く話に入れないわけで。別に入ろうとなんて思ってなんていないんだけれども。


「スペース!」

「…なに」


突然名前を呼ばれてびっくりした。びっくりした、といってもその感情は表に出ることはない。それがボクなのだから。もう自覚くらいしている。それにしてもなんだ本当に突然
。ボクの名前が出てくるような会話ではなかったはずだぞ。


「スペースも修行に参加すればいいのに!」

「そうよ。そうすれば自分に力がついていくのをはっきりと感じることが出来るもの!」

「それに、相手と心が一つになっている感覚がとても気持ち良くて、病み付きになってしまうぞ!」

「――だから!」


うきうきと浮かれて楽しそうにボクに話しかけてくる仲良しトリオにボクは声を張った。そして、仲良しトリオのボクに投げかけてくるその浮かれた声も、楽しそうな表情も、ぱたりと消える。


「ボクは、修行に参加しない」


うるさい、うるさい、うるさいな。もう何度目だ。キミたちがそうやって、勝手に、ボクを、くだらないことに巻き込もうとするのは。もう散々だ。飽き飽きだ。懲り懲りだ。もう、放っておいてくれ。
ぴしゃりと言い放ったボクに申し訳なくなってしまったのか、仲良しトリオは俯いてしまう。ざまあみろ、とボクは小さく鼻を鳴らして、このどんよりと落ち込んでしまった空気の中気にもせずに料理を口に運んでいく。みんなも重そうな空気の中、少しずつ料理を口に運んで行った。ああ、この料理も飽き飽きだ。


「ごちそうさま」


そう言ってボクは、料理を中途半端に残して椅子から立ち上がる。ナイフもフォークも乱暴に置いて、ボクはこの食堂から立ち去ろうとした。
だが、それは止められてしまう。


「スペース!」


また名前を呼ばれた。今度はなんだ。また修行がどうとか話し出したらボク怒っちゃうぞ、ぷんぷんだぞ。
歩を止めて振り返ってみると、どうやらボクの名前を呼んだのはアクアのようで、ちょっと怒ったような表情でボクをじっと見つめている。まさかそちらが先に怒りなさるとは思わなかったよボク。


「…なに」

「まさか、忘れてるんじゃないでしょうね」


一体何のことをおっしゃっているのかボクにはさっぱりですよアクア様。黙り込んでアクアが何を言いたいのか考えてみるも、何も思い出せないのでボクは考えるのを止めた。
すると、アクアは「やっぱりね…」と言ってため息を吐いてみせた。まさかため息を吐かれるとは思わなかったよボク。一体何を忘れているというんだボクは。
アクアはボクが中途半端に残した料理が乗っている皿を指差して、さっきまでの表情とは打って変わって笑顔を見せた。なんかもう前もって言っておきます。ごめんなさい。


「今日、スペースが片づけ当番でしょ?」


そういえばそんなのがありましたねお姉さま。
ボクは歩いてきた道を巻き戻しのように戻り、もう一度自分が座っていた席に座って中途半端に残したはずの料理にもう一度手を付け始めた。少し冷めてしまったそれは、いつもと味が少しだけ違ったように思えた。


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