日常の昼頃、連行

夢の世界から意識が戻ってくる。何か夢を見た気がする。でも、どうしても思い出せない。
くっついていたくて仕方がないらしい上まぶたと下まぶたを無理矢理ほんの少しだけこじ開けてみる。ボクの視界には薄暗い部屋が入り込んだ。ここはボクの部屋だ。光を不快に思っているボクがカーテンを閉め切った閉じ込められた部屋。
今何時ごろだろう。そうふと思って、重い体を持ち上げて枕元に置いてある時計を見てみる。時計の針は昼頃を指していた。そろそろあのくだらない修業が終わる頃だろうか。まあ、ボクには関係のないことだが。
まだ眠れるという結論に至ったボクは、時計を元々置いてあった位置に戻してくっつきたくて仕方なさそうにしていたまぶたを閉じて重い体をベッドに預ける。おやすみなさい。
すると。コンコン、と。控えめにドアがノックされる。そのノック音はこの空っぽな部屋によく響いた。ボクは「うう…」と小さく唸ってから布団を頭からかぶってドアから背を向けるように寝返りを打った。


「スペース?まだ寝てるの?」


ドア越しに聞こえてきたのは、ボクが仲良しトリオと勝手に呼んでいる三人組の一人のヴェントゥスの声だ。心配そうな声音でそう言ってきたヴェントゥスにボクはどうしたものかと考えを巡らせる。正直な話、もう目が覚めてしまったのかなかなか眠れそうにないところだった。
ボクはほぼ毎日のようにこうしてわざわざ起こしに来てくれるヴェントゥスに、内心うんざりしながらも布団をはいで起き上がる。大きな欠伸を一つしてのんびりとした動作で身なりを整えたりしている間にヴェントゥスはボクの名前を呼び続けているし、ドアもノックされ続けていた。部屋の鍵を開けるのを毎度のように躊躇いながら、ため息をついて鍵を開けてドアノブを回した。


「あ、やっと出て来た!おはよ、スペース!」


そう満面の笑顔で嬉しそうにヴェントゥスは言った。ボクはその笑顔がまぶしくて瞬きを素早く繰り返す。やめろ、そんな顔でボクを見るな。目がくらむ。ボクはヴェントゥスのその挨拶にはいつものように返さない。


「いつも思うんだが、キーブレードがあるんだ。勝手に開けようと思わないの?」


ほぼ毎回のようにそう言うと、ほぼ毎回のようにヴェントゥスは首をきょとんとした様子で傾けてから「だって」と理由を述べようとする。


「だってそんなことしたらスペース、嫌だろ?」


確かに嫌だけれどもずっとドアの外でボクを待っているのも嫌だろうに。ボクのこの性格だ。起きていても寝たふりをしてずっと部屋から出ないかもしれないのに。ボクだったら迷いなくすぐにでもキーブレードの力で部屋の鍵を開けて乗り込もうとするだろう。
やっぱりこいつには敵わない。ボクはヴェントゥスから視線を逸らしてため息を吐いた。そんなボクを見てヴェントゥスは笑みを深める。だから、そんな顔でボクを見るなとあれほど。
すると、突然ヴェントゥスがボクの右手を取った。ボクは突然のことに驚いて「うわ」と無表情で大して驚いてないような反応してしまう。


「お昼ごはん、一緒に食べようスペース!」


お昼ご飯、だと。だって今は修行が終わった時間じゃなかったか。
と、そこでようやく思い出す。ボクの部屋に置いてある時計は時間を遅く刻んでいるということ。それを直そうとするのを面倒に思っているボクがそのままにしておいているのを、寝ぼけ頭のボクが忘れていたということ。これもいつもの決まりきった出来事であるということ。


「ちょ、放せ」

「だってそうしないとスペース逃げようとするから!」


逃げますけど何か。
こうしてボクはヴェントゥスのあったかい手に握られながら、ほぼ強制的にみんなが待っているであろう食堂の方へと連れて行かれてしまったのだ。


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