はじめまして

目を閉じていても感じていた光がうっすらとしていくのを感じた。私は一体何が起こって何が起こっているのかわからず、恐る恐る目を開いてみる。
そこはさっきまでいた場所とは全く違う場所だった。光が弾ける前は外にいたはずなのにいつのまにか屋内にいるようで、辺りを見回してみると本がいっぱいあって今度は私の頭が弾けそうだ。
えっと、一体どういうことなのかしら奥さん?


「成功…したのか……?」


「へ?」


光に包まれてから視界がおかしかったがようやく目が薄暗さに慣れてきたところで聞き覚えのある声が聞こえた。目の前には変なファッションの青年が立っている。
え、何?ここコスプレ会場とか?
その青年だけでなく他には老人や額が広い中年男性がいたようだ。私の頭はますます混乱してしまう。自覚済みのちっぽけな脳みそじゃ処理しきれない。
すると額の広い中年男性が急に「ふははは」といった具合に笑い出して突然のことに私はびくり、と肩を跳ねさせてしまう。


「とんでもないハズレを引いたようだな。こんな自分ですら守れなそうな人間を召喚して。間抜けそうな護衛獣だ」


そう言ってまたさらに笑い出した中年男性に私は何だかよくわからないがカチンときてしまう。ずんずんと中年男性の元に歩み寄っていく私を青年は止めようとしたが少し遅かったようだ。
中年男性のいる机を手のひらで叩く。バンッという音がこの広い本だらけの部屋に響いた。ギッと睨みつけていると中年男性が「なんだ?」と言ってくる。


「なんだ?じゃないわ!あんたねえ…確かに勉強は全くだけど剣道だけは誰にも負けないのよ!そうやって人を馬鹿にしてるといつか何倍にもなって返ってくるんだから!覚悟しなさいよ!!」


私の人差し指をぐりぐりとその人の広い額に押し付けてそう言うと、その中年男性の額に青筋が浮かんだように見える。
ありゃ、やりすぎたかな。


「お、おい。落ち着けって…!」


私の肩を掴んで少し強引に中年男性から離れさせた青年。なんとか中年男性に気持ちを落ち着けるようにと慰める老人に申し訳ないことをしてしまったのかもしれない。
私はくるりと体を青年の方に向ける。


「ねえ、ごえいじゅー?それって何なの?私新しい特撮の怪獣に選ばれちゃったの?」


「とくさつ…?それはちょっとわからないけど護衛獣についてはまた後で説明するから…!えっと、君の名前は?」


全く意味がわからない。頭がそろそろオーバーヒートしてしまいそうだ。とにかく後で色々説明させるしかないのだろう。私の頭なんかで理解できるかはわからないが。
私はむっとした顔で腕を組んで青年を見上げる。


「人の名前聞く前に自分の名前名乗るってのが礼儀ってもんでしょ?」


私が堂々と礼儀ってもんを説くと、青年は少しぽかんとした後に急に吹き出した。またも突然のことに私は「うおう!?」と声を出して驚いてしまう。そうすると青年はついには腹を抱えて笑ってしまった。
こいつ舐めてんのか…。


「ごめんごめん。俺はギヴァ。君の主」


ギヴァ?主?さらにわけがわからなくなってしまった。
そういえばギヴァって私が帰り道に空から聞こえてきた名前ではないか。この人が私を呼んだってことなのかな。
ギヴァなんて日本では使われなさそうな名前だ。ということはここは外国辺りなのだろうか。一人で考えてみても答えにたどり着くわけもないだろう。


「ギヴァっていうのね。私はココロ。主ってことはおかえりなさいませご主人様!とか言ってご奉仕するワケ?」


私の言葉にギヴァが口元を手で押さえる。どうやらギヴァは笑いをこらえるのに必死なようだ。この人大丈夫なのだろうか。
するとさっきの落ち着いたらしい中年男性がコホンと咳払いをした。それを聞いてギヴァはさっきとは打って変わって真剣な顔つきになる。こんな顔にもなれるんじゃない。


「ともあれ、お前と共に試験を受けるべき護衛獣はここに召喚された。ギヴァよ、お前の召喚した下僕と共に、これより始まる戦いに勝利せよ!」


その言葉にギヴァの表情や体が硬直する。もちろん私も石化してしまう。
戦いに勝利?召喚?下僕?試験?何が何だかまったくわかんないってば誰か説明してよ!


「あ、あの!そんなこと聞いてない――」


「た、た、戦えってえええ!!?何言ってんのよあんた急に!バカじゃないの!?いきなり変なところに連れてこられていきなり戦えって!?ふざけんなってのよ!!」


ギヴァの言葉を上書きするように私は身を乗り出してそう中年男性に言った。もう混乱してて頭が全然処理してくれないよ!
私が助けてよって言ったから?もうあの言葉取り消すんでどうにかしてください!


「お前の戦うべき相手はこの者たちだ」


「ちょっとスルー!?酷くない!?それ――」


「わかりました。ココロ、戦うよ」


今度はギヴァが私の声にかぶせてそう言った。私が一人で興奮していたおかげでギヴァは冷静になれたのか私に落ち着いたような声でそう言って笑う。もうこの人ったら案外イケメンだから困るわ。
私は頭を掻いて「もー…仕方ないなあ」とぶつくさ言いながらずっと握っていた竹刀をようやく見てみる。


「…って相棒が刀になってる!!?どんなマジックよこれ!?」


ずっと抜身の刀を持ちながら暴走してたってことなのだろう。私はなんて危ないことをしていたのだ、と今更になって反省する。
中年男性が言っていたこの者たちとはどうやらよくゲームに出てくるスライムのようなもので、こいつらと戦うのだろうと混乱している頭でぼんやりと考えていた。
隣に並んだギヴァが武器らしい剣を取り出して構える。私も釣られるように剣道の基本の構えをした。


「行くぞ!」


「了解ご主人様!よっしゃあてめえら!私の進化した相棒でぶちのめしてやらああああ!!」


そう言って私とギヴァはスライム三体に向かって駆け出した。



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