JOKERTRAP第二弾が
上演決定したようです




「聞いたかい、イッチー。JOKER TRAP好評につき第二弾の製作が決定したらしいよ」
「ええ、聞きました。第一弾もファンの皆さんの声で再演に再演を重ねることができましたが……新たな舞台に繋がったのは非常に喜ばしいことですね」
「そうだね。レディもとても喜んでいたよ。第二弾もテーマソングは彼女の曲を、とすでにオファーを受けているらしくてね。それも総合演出、音響監督、プロデューサーがそれぞれラブコールを送ったそうだ。それはもう熱烈な、ね」
「それはまた……流石は春歌ですね……」
「レディの作る曲は本当に素晴らしいからね。当然といえば当然だよ。……あのプロデューサーはちょっと度が過ぎているようにも感じるけどね」
「レン、失礼ですよ。……確かに彼は春歌のファンを自称しているだけあって春歌に対して並々ならぬ執着を抱いているようにも取れますが」
「彼、この前レディの肩を抱いていたよ?」
「よし、消しましょう。今すぐ。あの男を」
「怖いなイッチーは。まぁオレも、つい携帯に手が伸びたけどね」
「社会的に抹殺しようとしたあなたに怖いと言われる筋合いはありません」
「まぁ、彼のことはそのうちどうにかするとして……第二弾のことなんだけど」
「む?それはJOKER TRAPの話か?」
「あ、バロン」
「お疲れ様です、カミュさん。黒崎さんもお疲れ様です」
「おう。で?早速第二弾の話か」
「ランちゃんたちも知ってたんだ。耳が早いね」
「ああ、今しがた第二弾に関するスケジュールの確認を終えたところだ」
「おれもだ。あと、台本の大まかな内容……つぅか設定だな。その説明も受けた」
「あ、今その話をしようと思ってたんだ。今回の設定、かなり面白いよねって」
「設定……ですか?」
「なんだ、一ノ瀬はまだ説明を受けていないのか?出演のオファーは?」
「オファー自体は受けています。ですが、私がオファーを受けた時点ではまだ設定は固まっていなかったようなので」
「そういうことか。じゃあ、今回はラブストーリーになることも知らなかったってことかな?」
「え」
「あー、あれだろ。前回出てきた女エージェントとの恋を描くとかいうやつだろ?前回はそういう要素なかったからな。……ないままでよかったのによ」
「女エージェントと誰が恋仲になるかまでは決まっていないようだが、方向性はラブストーリーで決定したらしい」
「そうですか……」
「あ、それと、新しくキャストが追加されるのと……女エージェントに名前が付くらしいよ」
「何?それは初耳だな」
「まだ仮らしいけどね。コードネームは『クイーン』で、名前は『ハルカ』」
「なん……だと……」
「それは……確かなのですか、レン」
「言っただろう?仮だって。でもコードネームの方は決定だろうね。名前はプロデューサーがどうしても『ハルカ』が良いって言って譲らないって言うから、そっちも決定は時間の問題かもしれないけど」
「あのセクハラプロデューサー野郎…!」
「どこからその名前を持ってきたのか一目瞭然ではないですか!」
「私欲で舞台を動かそうとは……プロデューサーの風上にも置けん奴だな」
「……と言いつつ、みんなそわそわしてるみたいだけど、大丈夫?まさかとは思うけど、自分の役と『ハルカ』のラブストーリーについて妄想なんてしてないよね?」
「すすすするわけねぇだろ!バカか!」
「あああ当たり前です!」
「……………………くだらんな」
「そうなんだ。まぁ、オレはしたけどね?」
「したのかよ!」
「まだ台本は上がってないんだ。ちょっとくらい想像したって構わないだろう?」
「それは……そうかもしれませんが……」
「もしかしたらそれが実際の台本になるかもしれないしね?ちなみにオレが想像した物語はこうさ」




******************




 夜の街を切り裂く、一発の銃声。放たれた銃弾は彼の腹を射抜いた。

「い……いやぁああっ!」

 すべては一瞬の出来事だった。ハルカを狙った銃弾から彼女を守ることができたのだと、レンは知る。己の腹が赤く染まっているのが何よりの証拠だ。身の内でのたうちまわる烈火の如き痛みが、どこか誇らしくも感じた。
 ハルカを狙っていた暗殺者の気配はもうなかった。銃弾の音を聞き付けたらしい人間たちが寄ってくるのを感じ取ったのだろう。ならばハルカはもう安全だ。ほっと息を吐き出した瞬間、がくりと力が抜けた。そのまま地面に膝をつく。立ち上がる気力も体力も、もうない。

「レンさん…!……どうして、こんな……どうして…!」

 座っていることもままならず、前のめりに倒れかけたところを抱き留められる。目の前に広がったのは、きれいな純白だった。まるで雪のように清廉で、美しい白。彼女が纏うそのドレスを己の赤で汚してしまうのが忍びなくて、どうにか離れようとしたが、力は入らなかった。
 そうか、オレはここで死ぬのか。怖くはなかった。悲しくもなかった。ハルカは生きている、無事である、それだけで満たされた。悲しい顔をさせてしまっているのは辛かったけれど、仕方ない。
 ぱたぱたと温かいものが降ってくる。それがハルカの涙だと気づくのに、そう時間はかからなかった。彼女の頭を撫でてやろうと手を伸ばす。だが、力が入らなかった。ずるり、と滑った腕がレンの身体全体を地に落とした。ハルカの悲しげな顔を、見上げる。

「泣かないで……レディ」
「レンさん……だめです、しゃべってはだめ!」

 今、救急車を呼びますから、と。ハルカが震える手で端末を操作する。血と涙にまみれた手を、レンは最後の力を振り絞って、掴んだ。そして首を振る。もう、手遅れだから、と、そう伝えた。

「いや……いやです、レンさん……諦めないでください…っ!」
「いいんだ……オレはキミを救えた。それだけで十分だよ……」
「いやです……いやぁ…!」
「……オレはキミを泣かせてばかりだね」

 不意に。初めて出会ったときのことを思い出した。あれはまだ、レンもハルカもSASに所属していた頃のこと。とある重要なミッションのため、ハルカがレンを試した、あのとき。

「覚えているかい…?あの時もキミは、オレの前で泣いたんだ……あれは演技だったけど、ははっ、すっかり騙されてしまったよ……」
「っう……レンさん……っ」
「あの時はいもしない男のために泣いていたけれど……今、キミは、オレのために泣いてくれている……それだけで、オレは……」
「レンさん、お願いです……もうしゃべらないで……お願い……」

 ハルカの温かい手が、レンの手を取った。そうしてレンはようやく、自分の手が冷たいことを知った。

「ハルカ……ひとつだけ、約束をしよう」
「約……束…?」
「キミは……生きるんだ」
「!」
「生きて、あいつらを……SASを歪めたあいつらを、裁くんだ……そしていつか、『クイーン』ではなく、『ハルカ』として……『七海春歌』として、どうか……」

 幸せに、生きてほしい。レンはそう言うつもりだった。SASによって人生を狂わされ、翻弄され続けたひとりの少女を、レンは救いたかった。一度だけ見せてくれた、あの心からの笑顔を、取り戻したかった。この手で、幸せにしてやりたかった。それはもう、叶わない夢だけれど。
 レンはひとつ息を吐いた。目を閉じる。ハルカ、オレの春歌。どうか、幸せに。それが彼の意識が紡いだ、最後の言葉だった。




******************




「と、いった感じかな?」
「悲恋ですか……」
「……暗いな」
「そうかな?こういう裏社会ものではよくある結末だと思ったんだけど」
「確かに、よくある手法ではあるだろう。だが問題はそこではない。神宮寺、貴様、さりげなく『七海春歌』を登場させるな」
「おっと、ばれたか」
「何故ばれぬと思った。勝手に春歌を巻き込むな。しかも報われぬ結末に」
「報われる結末ならよかったのかい?」
「いいわけねぇだろ!」
「残念、悲恋じゃない結末バージョンも考えていたんだけどね」
「……レン……あなたという人は……」
「おっとイッチー、その人を蔑むような目はやめようか?自分だって想像したんだろう?春歌との恋物語を」
「さりげなく『ハルカ』を『春歌』に置き換えないでください。私は……ただ、こういったストーリーになる可能性もあるのではないかと考えただけで」
「……結局妄想してんじゃねぇか」
「妄想ではありません!可能性の探究です!たとえば――」




******************




 いけません、とハルカは言う。何度も何度も、繰り返す。それはトキに向けられたようでいて、本当は彼女が自身に言い聞かせるためのものだと彼は理解していた。
 大きな瞳を揺らめかせ、あなたを危険な目に遭わせてしまいます、と続けた彼女の腕をトキは捕まえた。びくり、肩を揺らし逃れようとするハルカを引き寄せる。

「危険な目に遭う?それがどうしたというのですか」

 抱きしめたハルカの身体は震えていた。それはSASを支配するあの男――『キング』に対するものであり、その男に立ち向かわねばならない恐怖であり、自分を巻き込んでしまうかもしれないという不安であることをトキは知っている。おそらくは、自分を思っての部分が一番大きいであろうことも、彼は気づいていた。彼女の紡いだ言葉同様、揺れる菜の花色の瞳もはっきり告げていたからだ。

「は……離して、ください…!」
「離しません。離したら……君はひとりで行ってしまうのでしょう?あの男の元へ」
「それは……そうしなければ、いけないことですから…!わたしが断ち切らないと、いけないんです…!」

 だから離してほしいと彼女は繰り返した。SASを私欲のために変えてしまった男を断罪するために、彼女はたったひとりで行こうとしている。それが、SASを作った人間のひとりである自分の責任なのだと言って。
 確かに、それは必要なことなのだろう。このままあの男を放っておけば、SASはただの犯罪組織に成り下がる。発足時のメンバーが掲げた理想は踏みにじられ、消える。
 だが、トキはこう考えていた。あの男を断罪するために奴の私兵が待ちうける本部へ、何故ハルカをひとり向かわせなければならないのか、と。

「何度でも言いましょう。私も、行きます」
「いけません…!殺されてしまいます!」
「覚悟の上です。君をひとりで行かせるよりは遥かにましです。それに……分かっているのですか?あの男の、君に対する歪んだ想いを」

 腕の中でハルカが肩を揺らした。カタカタと震える彼女を、トキはしっかりと抱きしめる。

「あの男は……ハルカ、君を愛している。いや、愛していた、が正しいかもしれません。彼の想いは確かに愛でした。けれど今では君を我が物にすることしか考えていない。君の意思など考えてはいない。君を殺しはしないでしょう。しかし、君は彼に囚われる。死ぬまで、ずっと。……そんな男の元へ君をひとりで送り出すことなど……私にはできません!」
「……っ!」
「どうか、私を連れて行ってください。君を守らせてください。いいえ、君が何と言おうと私はついていきます。君を守ります。大丈夫、私は君をひとりにして死ぬ気はありません」
「トキ、くん……」
「共にあの男を倒しましょう」

 ハルカの身体から強張りが消えたように感じたのは気のせいではないだろう。ああ、彼女はやはり恐れていたのだとトキは思った。当たり前だ。怖くないはずがない。あの男の力は恐ろしく、邪悪なのだから。
 ひとりで行かせるようなことにならなくてよかった。そう思いながらトキはゆっくりとハルカの背中を撫でた。大丈夫、自分が隣にいるから、と想いを込める。心なしか、ハルカが自分に寄り掛かってくれたように感じた。そのことにどうしようもなく心を躍らせている自分に内心、苦笑しながら、トキはこう続けた。

「そして、すべてが終わったら……」

 そっとハルカの顔を覗きこむ。ぽろぽろと零れていく涙を拭い、安心させるために微笑んでみせた。

「私と、結婚してください」

 突然すぎる求婚だったかもしれない。本当ならもっとロマンチックに、相応しい場所や時間を綿密に計算した上でするべきだったとも思う。だが、彼に後悔はなかった。
 これは、たったひとりであの男へ立ち向かおうとした彼女を生へ引き戻すための約束であり、自分は簡単に死ぬつもりはないという宣言でもあった。生きて、結ばれるための約束だった。
 ハルカを見つめる。ゆらゆらと揺れる菜の花色は、やがて下を向いた。
 
「……トキくんは、卑怯です。そんなことを言われたら、死ねなくなってしまいます」
「おや、私に何も告げずひとりで行こうとした君には言われたくありませんね。さあ、返事を聞かせてください。はいかイエスでお願いします」
「ふふっ、それ、どちらも同じですよ?……返事は、お預けです」
「それは…っ!」
「生きて、戻ってきたその時に……お返事させてもらいます。ですから」
 
 どうか、死に急ぐことだけはしないでください。そう訴える菜の花色の瞳の少女に、トキはそっと、口づけを贈った。




******************




「……となるかもしれないと考えていただけです!」
「……」
「……」
「……ついに特定しちゃったよ、この子」
「『菜の花色』ってなぁ……春歌そのものじゃねぇか」
「気色悪いことこの上ないな」
「なっ……では黒崎さん、カミュさん、そういうあなた方はもっと素晴らしい物語を考えつくのですか!?」
「なっ!?」
「なんだと!?」
「あ、それはオレもぜひ聞いてみたいな」
「レンも私も話したのです。ぜひとも先輩お二方の『JOKER TRAP第二弾』の予想をお聞かせいただけませんでしょうか…?さあ!さあ!!」
「トキヤてめぇ、近づいてくんな!ぜってぇ言わねぇからな!!」
「神宮寺、ニヤついていないで止めろ!俺は絶対に喋らんぞー!!」


_ _ _ _ _


 結局、黒崎もカミュも妄想を語らせられましたとさ。めでたしめでたし☆いや別にめでたくないけどね!!
 という妄想でした。JT設定のパラレルもそのうちに書いてみたいものです。『キング』とか『クイーン』とか『エース』とか出してみたい。(増えた)



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