終幕の唄、はじまりの歌 3




 季節は春。春歌がshinyの前でさらわれたあの事件から四ヶ月が経った。

 あの日、春歌を攫い、蘭丸の命を狙った組織は蘭丸をはじめ、数多くの人間(七海春歌親衛隊と誰かが呼んだ。なんとも的確な表現である)の手によって壊滅へと追いやられた。
 林檎と龍也が乱入した後、嶺二や蘭丸や藍の後輩、カミュが籍を置く組織の構成員たちも戦いに参加した。四人だったはずの仲間は、終わってみれば十倍以上に増えていて、なんというか苦笑するしかない状況になっていた。春歌はこんなにもたくさんの人間を惹きつけていたのか、と。
 春歌のためなら工場ひとつ爆破するのも組織ひとつ壊滅させるのも厭わない連中の介入というとんでもない出来事もありつつ、やはり決定的だったのは早乙女の介入だろう。
 春歌が早乙女の秘蔵っ子であることを知らなかった彼らは、自分たちはなんという愚行を犯してしまったのかと顔を青くさせていたというが、それはそれである。
 残党による攻撃もまだまだ止まないが、今となっては春歌の身辺に危険の陰は見当たらない。蘭丸の関係だけでなく、嶺二やカミュの関係する事件も、春歌を狙うことはなくなった。
 当然である。早乙女の庇護を受け、龍也や林檎の元にあり、三人の騎士に守られていることが知れ渡った今、それでも春歌を狙おうという阿呆は存在しない。
 そして春歌の最も近くにある男の存在も、一役買っていた。




「おもしろくな―い!」
「レイジうるさい」
「うるさいぞ寿」
「だってだって―!」
 閉店まであと一時間を切った頃、最後の一般客が姿を消したのとほぼ同じタイミングで嶺二は叫んだ。きっちり文句を投げてくる藍とカミュを無視し、手にしていたグラスをカウンターにたたき付け、きっと眉を釣り上げる。
「春歌ちゃんが!ぼくのお姫様が!ランランの恋人になっちゃうなんて!これをおもしろくないって言わずに何をおもしろくないって言えばいいの!」
「ちょっと、泡飛ばさないでくれる?それと、春歌がランマルと付き合い始めたのはあのあとすぐだったでしょ?何を今更拗ねてるの?」
「ふん、酔っ払っているだけだろう。だが、気持ちはわからんでもない。我々の姫君を奪い去ったのだ、文句のひとつも言いたくなる」
「まぁね。今まで散々突き放してきたくせに今さらなんなのホント何様って感じだけど」
「……てめぇらなぁ……」
 彼らと並んで酒を飲んでいた蘭丸は呻いた。前から遠慮のない奴らだとは思っていたが、本人がいるその場で本人に対する恨みを吐くのはどうかと思う。それはもう恨みがましい目で見てくる三人にため息を放った。
 今のこいつらの顔を春歌に見せてやりたい。そうすればこいつらを格好いいだの素敵だのなんだの言うのをやめるだろう。それだけ、三人の目は冷たかった。

 蘭丸は春歌の恋人という肩書きを手にしていた。あの事件のあと付き合いを始め、先月から同棲もしている。先述した通り、まだまだ残党による攻撃は止まらないし、心配事がすべて片付いたわけではない。だが、そんな生活の中でも春歌は幸せに笑っている。そんな春歌を慈しむ生活を、蘭丸は気に入っている。概ね順調なお付き合いと言えるだろう。
 ……時々こうして、春歌を好いていた(否、現在進行で「好いている」が正解かもしれない)連中の殺意を向けられる以外は。
「で?どういう心境の変化があったわけ?」
 その日、口火を切ったのは藍だった。普段から感情が感じられないと表される目は、絶対零度に冷え切っている。冷たすぎて揺らめきすら感じるそれは、これ以上なく本気だった。本気で「春歌の想いを無視し続けてたくせに何様なの?」と言っている。
 だが、ここで引くわけにはいかない。ここで少しでも遠慮を見せれば、確実に合唱が始まるのだ。「じゃあ春歌(ちゃん)を俺(ぼく・ボク)に渡せ」の大合唱が。
 こちらの出方を窺う嶺二とカミュを視界の端に留めつつ、蘭丸は慎重に言葉を選んだ。ひとつ呼吸を置いて、口を開く。
「……何度も話しただろ、それ」
「知らない。記憶にない。だから話して」
 てめぇに限って記憶にないとかありえねぇだろうが!と蘭丸は叫びたかったが、ため息で抑えた。叫んだところで事態は好転しないこともいい加減この二ヶ月で学んだ。
「だからそれは……春歌、が」
「春歌が?」
「春歌が、俺から離れようとしねぇから」
 それは本当のことだった。
 あの日、春歌を助けるために事務所に飛び込んだ蘭丸は、春歌の目の前で撃たれた。命に別状のある傷ではなかったものの、目の前で起きた出来事に春歌はかなりのショックを受けたらしい。蘭丸が目を覚ますまで決してそばを離れようとはしなかったと、林檎に聞いた。
 傷がほとんど癒え、他人の世話を必要としなくなってからも、春歌は蘭丸のそばにいることを望んだ。この手を離してしまったら、蘭丸さんはどこかに行ってしまうんでしょう?そう言って涙を流しながら見上げてくる春歌を、蘭丸は突き放すことができなかった。
「よく言うよ突き放す気なんてなかったくせにぃ」
「嶺二!てめぇ人の心読むな!」
「わかりやすい顔をしている貴様が悪い」
「なんでだよ!」
 ジト目で睨んでくる嶺二に一発くれてやりながら、内心ではその通りだと考えていた。
 春歌をこの手で救い出した、あの時。それまで感じていた焦燥も苛立ちも、不安も後悔も何もかもが吹き飛んだ。華奢な身体を抱き寄せて、その無事を確かめて、こう思った。春歌が無事でよかったと。そしてもう、これ以上の後悔はしたくないと。そう思った。
 自分の預かり知らぬところで春歌が傷つくのも、春歌が奪われるのも、ごめんだと思った。それは、彼女のために離れなければならないという理性よりも強く、速く、蘭丸の心を埋めていった。彼女を守るために離れるという考えは、彼女を守るためにそばにいようという思いへ形を変えた。
 多分、もっとシンプルな感情もあったと思う。好きだからそばにいたい。求める心に従って、求められる心に応えたい。一度は抑えたはずの欲求が、状況によって強められただけ、だったのかもしれない。
 だが、結果は同じ。蘭丸はあの日から春歌の隣にある。
 
 彼らの会話は続く。暴力反対だの横暴だのと泣き始めた嶺二に呆れていると、逆隣の藍が深いため息を吐いた。また何か嫌味が飛んでくるかと身構えた蘭丸の予想に反し、藍は穏やかにこう言った。
「まぁ、結果としてはよかったんじゃないの?」
「何がよかったって言うのさ―!」
「レイジうるさい。泡飛ばさないでって言ってるでしょ。……ランマルのおかげで、ボクたちはこうやって堂々と春歌に会えるようになった、ってこと」
「そうだな。それは確かに唯一、感謝できる部分と言えよう」
「い―や!唯二、唯二だよ!!」
 カウンターに突っ伏していた嶺二ががばりと起き上がった。その大声に、カウンターの中で作業していた龍也が訝しげな顔を向けてきたが、酔っ払いの叫びだと知ると呆れた目をひとつ残し、再び作業へ戻っていく。
「唯二?もうひとつあるってこと?」
「男としては悔しいけど!そらも―ハンカチ噛み締めたくなるくらい悔しいけど!」
「質問の答えになってない」
「美風、放っておけ。どうせ酔っ払いの戯れ言で――」
「悔しいけど!……春歌ちゃんが幸せになれてよかったって……ぼくは思うんだ……」
 その言葉に、静寂が落ちる。ふにゃりと柔らかく表情を緩ませた嶺二が蘭丸を見る。とても穏やかな顔だった。
「ありがとう、ランラン。春歌ちゃんの笑顔を取り戻してくれて。これからも、ず―っとず―っと幸せな女の子でい続けられるように、してあげてね!」
 でも泣かせたら承知しないぞ―と拳を振り上げたかと思うと、嶺二はそのままぱたりとカウンターに突っ伏した。やがて聞こえてきた寝息に、なんとなくため息が出る。
「寝やがったか……ほんっとに、めんどくせぇ奴だな……」
 酔った嶺二の言葉と行動を見て、呆れたような顔で藍とカミュも覗き込んでくる。だが、その顔にあるのは小さな笑みだった。
「……そんなん、てめぇにわざわざ言われなくても分かってんだよ」
 嶺二を見下ろし、蘭丸はつぶやく。その顔は決意と、春歌への想いに溢れていた。
 
 
「お、お待たせしました…!」
 閉店の札がドアに提げられるのとほぼ同時に、春歌が店の奥から現れた。白いドレスから淡い色のワンピース姿となって、慌てた様子で駆けてくる。
 ステージで見せる凛とした姿とは異なる愛らしいそれに、蘭丸は薄く微笑んだ。待ってねぇよと声を掛けてやろうと口を開ける。だが、蘭丸も早く、突っ伏していた嶺二が顔を上げた。
「春歌ちゃん!今日もよかったよ!最高だった!」
「あ……ありがとうございます!」
「特にアレ!あの曲!『temptation』!も―おに―さん春歌ちゃんにメロメロです!」
「え、わ、ひゃっ」
 春歌にメロメロにされたらしい嶺二は、誰も止める間もなく春歌に走り寄ると、その小さな身体を思いきり抱きしめた。ご丁寧に猫がするようにすりすりと春歌に擦り寄る。抱きしめる手が腰の辺りをさ迷っているのも見えた。どう好意的に見ても、目に余る。だが、ふざけるなと立ち上がったのは蘭丸だけではなかった。
「寿……貴様……よほど埋められたいようだな……」
「え、ちょ、なに!?ミューちゃんシャレにならない顔して、んぎゃあああああ!!」
 あえて、何が起こったかは書くまい。結果だけ言うならば、嶺二はカミュによって再びカウンターとお友達になった、としておこう。そして、嶺二のセクハラから春歌を救い出したカミュはそらっと春歌の肩を抱く。
「大丈夫か、春歌」
「えっ……あ、はい、わたしは大丈夫ですが、れ、嶺二さんが……」
「構うな。だいぶ酔いが回っていたようだからな。疲れていたようでもあったので、寝かしつけてやった」
「そうだったんですか……カミュさんはお優しいですね」
「なに、人として当然のことをしたまでだ」
 騙されるな春歌!寝かしつけるとかそんな生易しいレベルの話じゃなかったぞ!蘭丸は叫んだ。心の中で。実際に叫んで春歌の肩を離そうとしないカミュに文句を言ってやろうと思ったのだが、再び彼は先を越されることとなる。藍が立ち上がったからだ。
「カミュ、春歌が嫌がってる。その手、離したら?」
「ふん……嫌だ、と言ったら?」
「春歌、今カミュを追い払うから。そしたらそこに突っ立ってるのと帰っていいから」
「おい、俺を無視するな!」
「悪かったな突っ立ってるだけで!」
「あ、藍くん!?何をなさるつもりで……」
「こうするんだ」
 春歌へ優しい笑顔を向けたまま、ぱちん、と藍が合図を送ると。ひゅ、と風を切る音が響いた。その音に目を見開いたカミュが、春歌から離れる。すると、そこには。
「ナイフ……月宮か!」
「せ―いか―い」
 床に突き刺さるナイフ、それを放ったのは店の奥で仁王立ちする林檎だった。服装、アクセサリーに靴、そういった身に纏うものはすべて女性のものだというのに、雰囲気は完全に男のそれだった。はっきり言って、恐ろしいという意味も混ぜて悪夢的である。
「ハルちゃんに手ぇ出そうなんて百万年早いよ、坊や?」
「美風!貴様、月宮と取引したな!」
「うん。ボクは春歌の幸せを願ってるからね。カミュやレイジみたいに下心なんてない。春歌に手を出したらこうしてもらうように頼んでおいたんだ」
「下心はない、だと?ぬかしおる!それも作戦のひとつだろう!」
「なんのことかさっぱりわからないな」
「さ―てと、【伯爵】とか呼ばれて組織でも畏れられてるみたいだけど……どれ程強いのか見せてもらおうかな…?」
「くっ……」
「待ちやがれゴルァ!」
 カミュと林檎が店を出ていく。それに続いて藍も、嶺二を引きずりながら出ていった。しばらくは外から林檎の声が聞こえていたが、やがて静けさが戻ってくる。とてつもない、静寂だった。
 一連の出来事にぽかんと呆けていた蘭丸は、龍也の閉店宣言に我に返る。そして、未だ何が何やらわかっていないらしい春歌の隣に並んだ。
「あ―……帰るか」
「ええと……はい」




 寄り道をしたいと言ったのは春歌だった。足取りも軽やかに歩く春歌の手を捕まえ、行き先を尋ねる。春歌が提案したのは、公園に寄るというものだった。
「ああ、もうそんな季節か」
「はいっ!今日、お客様に桜が満開だったよと教えてもらったんです。蘭丸さんと一緒に見たいなと思って……」
 そう言って春歌はにこりと笑う。春の日だまりのような笑顔だった。愛らしくも、穏やかな、蘭丸のいちばん好きな表情。正直に言うと、非常にくすぐったい。今までさせてきたのが悲しげな顔や心配に支配された顔ばかりだっただけに、尚更だ。だが、決して嫌なわけではない。
 握った手にもうひとつ力を込めて、蘭丸は春歌に微笑む。
「……おう。よし、じゃあ寄ってくか」
「はい!」
 道すがら、色々な話をする。今日起こったこと、明日起こるであろうこと。昨日までに歩いてきた二人それぞれの道のこと。
 つい四ヶ月前まではできなかった取り留めない話を、二人は続けた。今まで離れていた分を取り戻すかのように、飽きることはない。それでも普段はあまり積極的に言葉を重ねない蘭丸が、その日ばかりはいつも以上に饒舌に語ったのには理由がある。多分、家に戻ったら話をしている余裕はなくなるだろうとひっそり考えていたからだ。
 明日は、shinyの定休日で、蘭丸の仕事も休み。ひとつの部屋に暮らす男女がすることと言えば、まあ、そういうことだ。
 そんなことを考える自分に、やりたい盛りのガキじゃあるまいしと思う部分もあるが、色々あって一ヶ月ぶりなのである。やっと手に入れた春歌なのだ。抱きしめて、唇を奪って、その甘い身体の隅々まで――
「……おれってこんな奴だったか…?」
「蘭丸さん?着きましたよ?」
 蘭丸が己に対して苦笑しているうちに、目的地に着いたらしい。見慣れた入り口がそこにはあった。
 
 どこにでもありそうな名前が付けられた小さな公園は、深夜ということもあって誰の影もなかった。背の低い植え込みに囲まれた入り口から中へ入る。噴水といくつかのベンチ、街灯に照らされたそれらを、木々が守るように囲んでいた。
 こども向けに作られてはいないこの公園に遊具はなく、目を楽しませるものといえば季節の花々くらいのものだ。だが、こんな街の中にあるにも関わらず、この公園はいつも美しく整えられている。
 頼りなげな街灯が照らす、小路の向こうに並んで向かう。自然と会話はなくなっていたが、二人の間に流れるのは平穏と心地好い春の風だった。
「わ、ぁ…!」
「すげぇな……」
 常葉樹に守られるように、その桜の木は立っていた。公園の入り口からは見ることができない位置にあるため、この桜の存在はあまり知られていない。だが、その美しさは決して、表通りのものに劣らない。知る人ぞ知る、という表現がぴったりの桜だった。
 枝を大きく空へ広げ、咲き誇る。街灯の淡い光に照らされた花はひとつひとつが可憐にして妖艶だった。すべての花が盛りを迎え、はらりはらりと風に踊っている。その光景を目の当たりにして、言葉は失われ、思考も奪われる。見事な、満開の艶姿だった。
「――もう何年も、この桜が咲くのを見てきたはずなんだがな」
 どれ程の時が経った頃だろうか。自然と、そんな言葉がこぼれた。隣で桜を見上げていた春歌がこちらを見る。蘭丸はそれを気配で察知しつつ、桜を見つめた。
「今年ほど綺麗だと思った年はない。むしろ……初めてかもな」
「……」
「桜を綺麗だと思う余裕がなかっただけかもしれねぇ。命狙われてるってのにそんなこと考えてられねぇからな。だが……」
 今、蘭丸がこの桜を美しいと思う理由は多分、それだけではない。春歌がここにいてくれるからでもあるのだろう。
 生と死、裏切りと恨み、金と錆、淀みと闇、そういったもので構成されたモノクロームの世界から、春歌は救い出してくれた。なのに一度は背を向け、突き放した自分を、春歌は再び求めて手を差し延べてくれた。それはまさしく、光だった。すべてを明るく照らし出し、世界の色に気づかせてくれた、光。
 そばにあることを望んで良かったと思う。問題がなくなったわけではないが、今なら手ずから守ってやれる。自分の手が届かない場所で春歌を失うことも、春歌を泣かせてしまうこともない。焼け付くようなあの後悔が生まれることはないだろう。
「春歌」
「はい」
「もう、おれから離れる気はないんだよな?」
「もちろんです!」
「おれも、もうおまえを離す気はねぇ。だから――」
 そこまで言って、蘭丸は春歌に視線をやった。何を言われるのだろうときょとんとした顔で待つ春歌に掠めるような口づけを仕掛ける。
「ら、蘭丸さん…!?」
「また、来年もここで。一緒にこの桜を見ような」
「! ……はいっ!」
 そうして目を輝かせた春歌が満開の桜にも負けず劣らず可憐に笑ったので、蘭丸は堪らなくなってもうひとつ、口づけを仕掛けた。はらはら花びらを踊らせる桜だけが、小さな誓いのキスを見守っていた。
 
 そして、その後。桜の下二人が交わした約束は、長く長い間守られ続けたのである。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 なぜアナタは求めることを諦めるのですか?
 なぜアナタは求められることを恐れるのですか?
 
 後悔はいつもアナタの隣で大きな口を開けて待っている。アナタが落ちてくることを。
 泣きながらアナタを呼ぶ彼女を見上げなければならないという結果を迎えたとしても、それでも、後悔はないと言えますか?
 
 彼女を泣かせてしまった自分を、求めていれば避けられたかもしれない結果を、アナタは本当に許せるのですか?
 
 
 
 ――そう、アナタはそれを許せなかった。許せないと思えるだけの心を持っていた。アナタはワタシが見込んだ通りのひとだった。本当に、よかった。
 
 アナタが求めれば未来は変わる。ワタシはそれを伝えたかった。ワタシは彼女に泣いてほしくなかった。だからワタシはアナタに伝えたのです。彼女にとってのつらい未来を変えてください、と。
 勝手な願いだったかもしれません。でもワタシには、それ以外に方法が思いつかなかった。
 
 そしてアナタは彼女を泣かせてしまうであろう未来を変えた。彼女が望んだように、アナタが望んでいたように。ワタシが、願ったように。
 
 どうか、これからも、後悔がアナタたちを襲うことがありませんように。どうかどうか、この終幕が、暖かいはじまりでありますように。
 どうか、アナタたちの進む道が輝きで溢れますように。
 
 ワタシにはもう、祈ることしかできないけれど。それでもこの歌が、二人を見守る神様に届くと信じています。
 はじまりの歌をワタシは歌いましょう。薄汚れたワタシに手を差し延べてくれた彼女と、彼女の愛する彼のために。永久に続くはじまりの、歌を――


_ _ _ _ _


 End.



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