告白は話し合いの後で




・ギャグです
・なんだか皆さんキャラ崩壊気味
・ギャグです
・春ちゃんは誰のパートナーでもない設定で、多分Sクラスの生徒
・しつこいですが、ギャグです




「…分かりました、こうしましょう」

 すべてはその一言から始まった。しん、と重く沈んだ部屋の空気に放たれた静かな声は、室内にいる人間の注目を攫い、そして。

「春歌への告白合戦をしましょう」

 彼らの目を点にした。




「うん、トキヤ。疲れてるなら休んだ方がいいよ?」
「失礼な、私は疲れてなどいません。言っておきますが体調も思考回路もすべて正常です」
「いやそんなマジなドヤ顔で主張されても異常にしか見えねぇんだけど…」

 いち早く「目が点」状態から脱却した音也と翔がツッコミを入れた。先程まで彼らによって成されていたあれやこれやをまるっとスルーする発言だったのだ。無理もない。
 だが、部屋の空気を良くも悪くも一新させた張本人は、涼しい顔で足を組み替えると、わざとらしくため息を吐いた。

「この状況を打破するための最上の策を提示したつもりなのですが、何故頭の可笑しい人間扱いをされなくてはならないんですか。理解に苦しみますね」
「お前の発言の方が理解に苦しむと言いたいのは俺だけか?俺だけなのか?」
「その点においては安心するといいおチビちゃん。…オレもだ」
「…だよな?」
「イッチー、悪いんだけど、あの話の流れでどうしてそういう結論に至ったのか説明してもらえるかな?」

 湯呑みを手に固まり続けている真斗を視界の端に留めつつ、窓際に立っていたレンがトキヤに説明を求めた。室内にいた他のメンバー(真斗を除く)も賛同するように頷く。するとトキヤはやれやれと言いたげに首を横に振ると、再び足を組み替えた。

「いいですか、今のあなたたちははっきり言って危険です」
「うん、トキヤ意味分かんない」
「話は最後まで聞きなさい。…六人が六人とも彼女に好意をいだいていることは先程の探り合いがなくとも分かっていたことです。そうです、私たちは春歌を愛しています、もちろんそういう意味で」
「トキヤが壊れた」
「崩壊は聖川の御家芸とばかり思っていたが…」
「だがしかし、私たちは互いに遠慮、もしくは牽制するばかりではっきりと行動に移してきませんでした。誰も告白はしていないでしょう」
「一番告白阻止率の高かったお前が言うとなんか説得力あるな…」
「はっきり言います。玉砕もできず鬱々と想いを抱き続けているだけの今のあなたたちは危うい!!危ういんです!!」

 バーン!机に両手の平を叩き付け、トキヤは立ち上がった。反動で彼の座っていた椅子がひっくり返ったが、誰も気に留める者はなかった。
 コイツ何言ってるんだ?という呆れ半分動揺半分の目を集めながらもトキヤは続ける。

「このまま行くと、あなたたちは確実に病みます!ならばこの際、告白し玉砕することによってきっぱりすっぱり彼女を諦めなさい!その方が鬱々と想いを抱えるよりずっと健康的です!」

 その後もトキヤは彼女の周りに危険人物を作るわけにはいかないだの青春は当たって砕けろだのなんだのかんだのと熱弁を奮った。
 周りは唖然とするばかりで誰も彼を止める者がない。六人の中で唯一の常識人とも言える翔は早々にツッコミを放棄していたし、大人な意見担当のレンも言葉を失っていた。
 そのままトキヤの独壇場となりかけていた空気を、割と普通に見守っていた那月の一言が打ち破ったのは真斗の手から湯呑みが滑り落ちた次の瞬間のことである。

「僕はいいと思います。告白合戦」
「四ノ宮、正気か…!?」
「あ、おかえりマサ」
「ああ、今戻った…ではなく!愛の告白を遊戯感覚で行うなど言語道断だ!」
「つまり真斗くんは自信がないんですね?」
「いや俺が言いたいのはそういうことではなくてだな」
「僕は自信、ありますよ」

 はっきりと言ってのけると、那月はトキヤに目を向けた。眼鏡の奥の瞳が細められ、口角を釣り上げる。

「トキヤくんには負ける気がしません」

 一方のトキヤも真正面から那月の視線を受け止めた。彼は言葉を発さなかったが、余裕に満ちた表情はこう語っている。相手にとって不足無し、と。

「ちょっ、待て、待て、落ち着けって!なんだこの流れは!」
「ハルちゃんは僕のものです」
「春歌のすべては私のものです」
「何この春歌を巡る三角関係みたいなの!どこの三文小説だ!」

 那月の参戦宣言に、唯一の良心がようやくツッコミを放つ心の余裕を取り戻した。だがその肝心のツッコミにいつものキレがない辺り、彼の動揺が見て取れる。
 再びフリーズした真斗と、口許に手を当てて何事かを考えているように見えるレン、そして睨み合うトキヤと那月という落ち着かない空気の中、音也がゆらりと立ち上がった。その雰囲気は、ちょっと、いやだいぶ怖い。

「…二人とも…」
「よぉし音也、言ってやれ!」
「俺も告白合戦するに一票!」
「そうだそうだ、…ってええ!?」

 思わずノリツッコミしてしまった翔を置き去りに、とてつもなく真剣な目をした音也はトキヤと那月を見遣った。

「賛成、ということですね?」
「うん。よくよく考えてみたらトキヤの言う通りかなって。誰かが抜け駆けして皆ギスギスするくらいなら正々堂々戦った方が後腐れなくていいと思う」
「(誰かが抜け駆けした暁には真っ先に病みそうなあなたに)分かっていただけて何よりです」
「トキヤ、なんか心の声漏れてる。…言っておくけど、俺、ちょっと自信あるよ?この前合同授業のときにさ…」

 そう言って春歌とのエピソードを語り始めた音也を、トキヤと那月は真剣に見つめる。春歌といっぱい目が合ってどうのこうのと嬉しそうに言う音也に、トキヤはどこか悔しそうにそれはあなたの勘違いでしょうと切って捨て、那月はそういう話なら僕もこの前ハルちゃんととマイペースに話し始めた。
 一方、音也参戦決定に唖然としていた翔は、メンバーの半分が告白合戦に賛成の意を示している事実に焦り始めていた。
 このままで行くと本当に告白合戦が行われかねない。昔某局で放送されていた番組のワンシーンを思い浮かべてしまい、慌てて首を振る。春歌の前に野郎共が横一礼に並んで、彼女に手を差し出す。「付き合ってください!」という合唱と共に、頭を下げ、彼女からもたらされるであろう福音を待つ――……

「いやどう考えてもあいつ困らせるだけじゃね!?おろおろするあいつしか想像できねーよ!」
「おチビちゃん…何を想像したんだい、きみは」
「何って、このまま行くとほぼ確実に来るだろう恐ろしい未来だけど」
「じゃあその恐ろしい運命に抗ってみようか。オレも参加し」
「ブルータスお前もかァアアアアア!」
「…て奴らの暴走を止めようかと思ったんだけど」
「あ、悪ぃ…被せすぎた」

 構わないよ、と軽く手を挙げてみせたレンに、翔は正直安堵していた。常識と迷惑という言葉をもう一回小学校で習ってこいと叫びたくなる奴ばかりでもなかったらしい。

「俺とレンで止めればなんとかなりそ…」
「神宮寺が参加するのであれば俺が参加しないわけにはいかぬな。お前の暴走を止める人間が必要だろう」
「…なんだと?」
「あれ、なんだろうこの不穏な空気と嫌な予感」

 気のせいだといいな〜と半ばヤケ気味に呟いた翔の前で、レンといつの間にか復活していた真斗が睨み合いを始める。二人の間に火花が見えるのは残念ながら翔の気のせいではないだろう。

「ハルを前にして、あの可憐で愛らしいハルを前にしてお前は自分の思いを抑えられるのか?本当に?」
「…………抑えられるさ、当然だろう」
「今の間はなんだ!迷いが透けて見えるぞ神宮寺!」
「じゃあお前はどうなんだ!お前こそ彼女を前にして暴走しない自信があるとでも?」
「…………大丈夫だ、問題ない」
「大有りだな!問題しかない!」
「お前にだけは言われたくない!」

 レンと真斗の言い合いと、他3名の春歌可愛いトークが遠く聞こえる。そうか、結局俺一人で何とかすることになるんだなと遠い目をしながら彼はこう思ったという。
 どうして俺はいつもこういう立ち位置なんだ、と。

 答えを返してくれる人間はその場にはいなかったが、彼の心情を知った者はこう言っただろう。常識人は往々にして、損をするものである、と。


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 特に続きません。←
 プリンスさまたちのわちゃわちゃしたやり取りを書きたかったのです…翔ちゃんごめん。そしてがんばれ。


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