a ribbon for you




・結婚してお子さんもいる翔春
・お子さんは男女の双子です
・お子さんの名前そのものは出てきませんが、男の子の方のあだ名が出てきます
・性行為をほのめかす(というか前戯)表現があります


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 時刻は夕方6時半、天気は奇跡の晴れ。
 梅雨の空に垣間見えた晴れ間を見上げて翔はひとつ笑みを浮かべた。こう思うのは単純かもしれないが、今日はこれからも良いことがありそうな予感がする。
 雨露の名残に洗われた空気を胸いっぱいに吸い込むと、翔は留めていた足を家へ向けた。水溜まりに映る空は綺麗な水色であった。

 誕生日というものは不思議だ。言ってしまえば、この世界に生まれ落ちたことを数字で表しただけのものなのに、どんな数字よりも愛しい数字になることがある。自分の誕生日も似たところがあって、その日を迎えると何でも上手くいきそうな、心が跳ねるような、くすぐったくも心地好い気分にさせられる。
 ガキじゃあるまいしと思いつつ、今日あったことを思い出す翔の足取りは軽い。ドラマの撮影ではひとつもNGを出さなかったし、映画主演の話ももらった。行く先々で祝いの言葉とプレゼントに囲まれて、アイドル・来栖翔として最高の一日を過ごすことができた。嬉しいものは嬉しい。今日はずっと笑顔でいた気がする。
 気を抜くとにやついてしまう顔をきりりと引き締め、翔は角を折れた。周りの家々に溶け込むように現れた白い壁の家が見えてくる。翔と、妻である春歌、そしてこどもたちが暮らす家だ。

 不意に、今朝家を出る前春歌と交わした会話を思い出す。

『今日は腕によりをかけてたくさん美味しいものを作りますから、楽しみにしていてくださいね』
『おう、期待してるぜ!』
『はい!あ、プレゼントはお帰りになってから渡します。あの子たちからもプレゼントがあるみたいなので』
『ある、みたい?どういう意味だ?』
『ええと…二人だけでこっそり準備しているんです。わたしもあの子たちが何をプレゼントするつもりなのか教えてもらっていないんですよ』

 楽しみですねと屈託なく笑った春歌にたまらずキスを送って家を出た、というのはまったくの余談だが、愛するこどもたちが何を準備して待っているのか想像するのは楽しかった。
 そういえば一ヶ月ほど前に、パパのいちばん好きなものはなぁにと尋ねられたのを思い出す。答えたあとに、何故そんなことを聞くのかと言えば、二人は顔を見合わせて笑うと、内緒だと声を揃えた。きっと、これからその答えが分かるのだろう。
 さて、どんなプレゼントで驚かしてくれるのか楽しみだ。



「ただいまー」

 玄関のドアを開け、帰宅を告げる。キッチンの方から明るい笑い声と良い匂いが翔のいる玄関にまで届いた。

「あ、パパだ!」
「パパがかえってきた!」

 廊下の奥にひょこりと小さな頭がふたつ、現れた。とたとた、と軽い足音を背中に聞きながらブーツを脱いでいると、近付いてきた足音が「えーい!」「それー!」という掛け声に変わる。これは来るな、と笑いを噛み殺した瞬間、愛しい重みが両肩を襲った。

「パパおかえり!」
「おかえりー!」
「…おっと、ただいま!」

 背中に飛び付いてきた二人をしっかり抱き上げ、翔は家に上がった。右手で娘、左手で息子を支える。

「おしごとおつかれさま!」
「つかれたー?」
「ん?いや、お前たちの顔見たら疲れも吹っ飛んだぜ!」

 覗き込んできた二揃いの青い目に微笑んで、翔はその場でくるくると回転してみせた。きゃらきゃらと楽しそうに抱き着いてくるこどもたちに、ママはどうしたと問い掛ける。いつもならそろそろ姿を見せてもいい頃だと思うのだが…。

「あのねー、ママはねー」
「じゅんびなの!」
「ああ、飯の準備で手が離せねーのか」
「ちがうのー」
「ちがうー」
「え?」

 腕によりをかけて、と言っていたのを思い出し、納得しかけた翔は二人に否定されて足を止めた。
 おりるー、と声を揃えたこどもたちを降ろしてやると、二人は翔の前に並んで立つ。そして、目配せしあうと、綻ぶような笑顔でこう言った。

「パパ、おたんじょうびおめでとー!」
「パパおでめとー!」
「ちがうよ、おめでとー、だよ」
「お、おで、めとー?」
「お、め、で、とー」
「おーめーでーとー…おでめとー!」
「あ、ああ、うん。ありがとうな」
「パパにね、プレゼントなのー」
「こっち!こっち!」

 そうして翔は二人に手を取られ、廊下を進む。存外強い力につんのめりそうになりながら、ダイニングの扉をくぐると。

「あっ…パパ、ええと…お、おかえりなさい…」
「た…ただいま…」

 そこに立っていたのは、色んなリボンでそこかしこを飾られた春歌だった。頭のてっぺんには大きな赤いリボンが結ばれ、首にはピンクの柔らかそうなリボン、両手にもそれぞれ鮮やかなリボンが巻かれている。腰にもエプロンの上から幅の広いリボンが巻かれていて、後ろでふたつの蝶々結びがゆらゆら揺れている。

「こ…これは一体…」
「あのねー、わたしとつーちゃんからのプレゼントなのー!」
「きょうはパパのたんじょびだから、パパがいちばんすきなものをあげる!」
「いちばん、好きな、もの…」

 そういえば。ひと月前に好きなものは何かと尋ねられたとき、自分はこう答えた。それはもう、きっぱりとこう言った。「パパのいちばん好きなものは、ママだ!」と。

「あ、あのあのっ、わたしまさか自分がプレゼントだとは思っていなくて、他のにしようって言ったのですが…」
「やー!だめー!」
「ママがいちばんなのー!」
「そうなのー!パパもぜったいよろこぶもん!」
「で、でも…恥ずかしいよー…」
「っふ、…あはははははっ!」
「パパ?」

 堪えきれずに吹き出した翔に、みっつの視線が集まる。それを感じながら翔は、あのくすぐったくも心地好い、ふわふわした暖色の感触に身を委ねた。ああ、なんて幸せなんだろう。止まらない笑いと、こぼれ落ちた涙の中で、最上の幸福が翔を包んだ。



「まさかあいつらからお前をプレゼントしてもらえるとはなぁ」

 夜も更け、こどもたちを寝かしつけた翔と春歌はリビングにいた。夕食の間、リボンを解くことを許されなかった春歌の頭と首には、こどもたちが寝静まったあともリボンが揺れている。
 そのリボンを弄びながら翔が苦笑すると、春歌も困ったように微笑んだ。

「わたしも想像してませんでした。あの子たちったら、リボンを集めるのもこっそりやっていたんですよ?」
「へぇ」
「去年みたいに絵を描いたり、歌を作ったりするのかなと思っていたのでわたしも本当に驚いて…あの、翔くん?わたしの顔に何かついていますか?」

 キャラメルブラウンの髪を撫でながら、翔が春歌にじいっと見入っていたのに気付いたのか、菜の花色の大きな目が見上げてくる。

「……プレゼントを、どう楽しもうか考えてた」
「えっ…あ…」
「……」

 耳元に囁き入れてやれば、春歌はかあっと朱を走らせる。ゆらゆら揺れる瞳が艶を帯びてゆく。自身の中に灯った情欲を込めて見つめ返せば、春歌は一瞬の逡巡の後にゆっくり目を閉じた。

「…っ、ふ…」
「…んぅっ、あ…っ」

 最初は触れるだけ、角度を変えて降らせるキスに春歌が甘いため息をついた瞬間を翔は逃さない。
 春歌の後頭部を支え、唇の隙間からするりと侵入し、舌を絡ませ、歯列をなぞる。最後に食べたショートケーキよりも甘い吐息に食らいつく。
 加速していく愛おしさと熱が、二人を繋ぎ始めた。

「や…あっ、しょう、く…っ」
「春歌…」

 くたりと力を失った春歌をソファーに横たえる。

「…リボン、解いて、いい…?」
「……っ」

 春歌は息を詰めながら小さく頷いた。腕を捕らえたまま、翔は鎖骨の近くで蝶々結びにされているリボンをくわえ、しゅるりと解く。
 薄く跡の残る首筋を舐めれば、春歌の身体がびくりと跳ねた。

「…誕生日、ありがとう」

 ぽつりと零れた翔の呟きは、ピンクのリボンと共に床へ落ちた。




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 翔ちゃん誕生日おめでとう!目一杯嫁を堪能してね!
 このまま続けたらリボンプレイに行きそうになったので続きは自重しました。


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