7/4 翔春



「完璧に強いひとなんて、この世界には存在しないんです。無敵のアキレスにも弱点があったように、ひとはその身の内のどこかに弱さを持っている。でも、私はそれで良いと思います。弱さがあることでひとは優しさを知ります。弱さを認めたときに強さが生まれます。弱さがあるから人間なんです」

 優しい声が染み入っていく。砂漠に降る雨のようだと思った。

「…あのね、翔くん。私は翔くんの弱さが愛しい。だってそれは翔くんが人間だっていう証拠だから。私と同じだって、ことだから」

 私は嬉しいんだよ、だから謝らないで、と。春歌に縋り付いたまま何も言えない俺に彼女はそう言った。
 弱さを認められない俺に、小さな身体に縋り付いてしまったことへの罪悪感に、春歌は赦しをくれる。男は見栄っ張りな生き物だから、己の弱さなんて認められないけれど、そうして春歌が俺の弱さを攻撃したりしないで認めてくれて、重いものがすべて身体から落ちたような気がした。
 春歌は弱さを持たない人間なんていないと言ったけど、それを知って、なおも受け止めようと両手を伸ばす彼女は、眩しいくらい強いひとだと思う。春歌に寄り掛かる勇気はまだない。誰よりも優しいこいつを潰してしまうんじゃないかって、怖くなる。
 けど、俺が支えたいと思うこいつに俺は支えられていることを知った。そうして生きていくことも悪くないなって、思うんだ。


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 支え、支えられていく生き物が人間だよねというお話。




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