6/19 那春



 唸り声のような風音と横殴りの雨が窓ガラスを叩いている。真っ暗な外の世界が部屋に侵入したがっているのだろうか。恐ろしい風の声に耳を塞ぎ、春歌は身を更に縮めた。
 ベッドの上にひとり、身を小さくしていれば、こちらを攫ってしまおうとする風と雨に見つかることはない。早く諦めて行ってしまってと目を固く閉じた。風と雨に先立って侵入を果たした冷たさが這い寄ってくる気配に身体が震える。怖くて寒くて、なんだか泣きたくなった。

「ハルちゃん、大丈夫ですよ」

 ふわりと背後から抱きしめられた。ベッドの上に這い上がってきた寒さがさらさらと霧散する。広く、大きい腕が、優しく腹の辺りへ回された。

「大丈夫、僕が台風さんを退治しちゃいますからね。すぐに穏やかな夜が来ます」

 蜂蜜を溶かしたような穏やかな声が春歌の耳の世界を包み込むように覆った。たったそれだけで、すとん、と心が落ち着くのが分かった。
 広い胸に身体を預けると、彼は春歌を抱えたままゆっくり横になる。くるりと回転させられて、彼と額を合わせるような格好になった。

「な、つき、く…」

 しゃがれた声しか出てこないのがもどかしかったけれど、彼はそれでも笑ってくれた。雨と風の音はいつの間にか遥か遠くへ行ってしまった。

「はい。大丈夫、僕はここにいるよ。安心しておやすみなさい」
「…ありがとう」

 ぽん、ぽん、とあやすように背中を叩いてくれる心地好いリズムを感じながら、春歌はそっと目を閉じた。今日見る夢はきっと、優しい蜂蜜色の夢だろう。

【雨音風音、優しい音色】





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