1/4 utpr小話小ネタ



・12/30〜1/1についったに流したプリ春と先輩春の小話です
・会話だけのものもあり
・順番はランダムです


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▼ 藍春

 ぱた、ぱたぱた。雨が傘を叩く音が響く。それにメロディーをひとかけら乗せた瞬間、心に咲いたのは甘い恋の歌だった。
 ら、らら。小さくつぶやくその歌に、彼は春歌へ視線を寄越した。
「新しい歌?」
「はい。雨音を聴いていたら浮かんできました」
「そう」
 跳ねるようなポップな歌になりそうだねと彼が小さく笑った瞬間、その歌に色が付いた。なんだか嬉しくなって、春歌は浮かんだ音符たちを書き留めるようになぞっていく。
 ら、らら。ららら。
 何度も繰り返すそのメロディーに、彼の声がプラスされる。見上げた先にあるのは小さな笑顔だった。ひとつになったふたつの歌声を聴きながら、春歌は目を閉じる。それはとても幸せな時間だった。

【雨の中にただ佇んで/藍春】


▼ トキ春

 甘え方がわからないと言ったのは確かに自分で、じゃあわたしも一緒に考えますと言ったのは確かに彼女で。ここに至る道筋は思い出せるのに、どうしてこうなったのかがわからない。
「何故私はこんなことになっているのか……」
「ああっ!トキヤくん、動いたら危ないです!」
「す、すみません」
 春歌から飛んできた鋭い声に現実へ引き戻される。いつもは見上げられる春歌に見下ろされているという現実、春歌の膝の感触という現実、春歌に耳かきされているという、現実。
 正直に言おう。参る。これは参る。
「どうしてこうなった……」
春歌には届かぬように口にする。そうやって現実から目を逸らさなければ色々なものに負けてしまいそうな自分を叱り付け、トキヤは甘えるというのはかなり大変なことなのだと思ったのであった。

【甘えるってどうすればいい?/トキ春】


▼ カミュ春

 ちゅ、と音を立てて吸い付く。絡まる水音を耳の奥で感じながら彼は思う。どうしてこいつはどこもかしこも甘いのか。香水やせっけん、シャンプーでは到底生まれ得ぬ味だ。
 春歌は香水を好んでつける女ではないし、せっけんにしろシャンプーにしろ、自分と同じものを使っているのだから、自分からも似た味がしなければそれのせいとは言えない。
 いや、たとえ同じものをまとっているとしても、それは匂いに限られるだろう。春歌は甘い「味」がする。上気した頬に舌を這わせながら彼は再びそう感じた。
 上等な砂糖菓子のような、舌に愉しく弾力のある肌。小さく鳴く声さえも甘い。甘い身体から発せられるのだから当然なのかもしれない。おそらく、春歌の身体は甘いもので構築されているのだろう。そうでなければこれほど夢中に、狂わされるはずがないのだ。
 脳髄を甘く溶かしていく甘味に彼はやがて、理性を飛ばした。

【あまい蜜のような/カミュ春】


▼ レン春

 遠く遠く、ここではないどこかへ逃げられたらいいのにねと彼は笑った。その目はとても遠いところに向けられていて、彼は笑みを浮かべているのに寂寥感をまとってもいた。
 思わずその腕に縋り付く。ダーリンがどこかへ行くというのなら、わたしも必ずついていきます。ダーリンをひとりになんてさせません。
 必死に紡いだ言葉に彼は、泣き出しそうな笑顔を浮かべた。それは彼が安心した証拠だとわかっているから、わたしは嬉しかった。
 ありがとう、オレも絶対にハニーを離したりはしないよと抱きしめられた腕の中、わたしは小さく微笑んだ。
 ……彼が「遠くに逃げたい」と言った理由、あいつらに邪魔されるのはもうごめんだとわたしの耳元でつぶやいた理由を知るのは、もう少しあとのことになる。

【どこか遠くに二人で逃げたい/レン春】


▼ 音春

「くやしいな、なんか俺ばっかり好きみたいで」
「そんなことありません!わたしだって音也くんのこと、だいすきです…!」
「それを言うなら、俺は春歌のことがだいだいだーいすきだよ!」
「じゃあわたしは、とってもとってもとってもだいすきです!」
「そう来たか!じゃあ俺は……」
 そうして行われた「第三十五回好きの背くらべ大会」は、テーブルに突っ伏したトキヤがギブアップを宣言する三十分後まで続いたのであった。なんとも涙を禁じ得ない話である。

【俺ばかり好きでくやしい/音春】


▼ 真春

「それで、いいんだと思います」
 病院のベッドの上、春の陽射しの中微笑んだ春歌は穏やかにそう言った。彼女はいつだって真斗がこぼした言葉を拾って、答えを与えてくれる。そのことにどれだけ自分が救われているか、春歌はきっと知らない。
「【ただそれだけでよかった】ことが、【それだけでは足りない】ことになるのは、確かにわがままなのかもしれません。でも、それがわがままかもしれないとわかっている真斗くんなら、きっと神様も許してくださいますよ」
 それに、と彼女は続ける。その腕の中に抱えた大切なものを抱え直しながら。
「そのわがままが向かう先であるわたし自身も、それを願っているんですよ?だから、真斗くん」
 この先に待つ幸せを、どうか求めることを止めないで。そう言って笑う春歌に、真斗はどうしようもなく泣きたくなった。春歌の腕の中、ぐずり始めたその子のように。

【ただ傍に居てくれたらそれだけで良かった/真春】


▼ 那春

「今年ももう終わりですねぇ」
「そうですねぇ」
「ハルちゃん、今年もありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございました。来年もよろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします。来年もたくさん仲良くしましょうね!」
「えっ?あ、そういう意味だったんですね」
「もちろん、お仕事も、です」
「ふふ、はい」
「約束ですよ?」
「はい」

【交わした約束/那春】


▼ セシ春

 どれだけ手を伸ばしても届かない。彼女は確かにそこにいるのに、伸ばした手は虚しく空を切るばかり。すぐそばにいるのに、あまりにも遠い。
(なぜですか)
 なぜ、自分の手は彼女に届かないのか。これが夢であることは理解している。けれど、なぜ夢の中ですら触れることを許されないのか。白い光の中に溶けていく輪郭を追いながら、彼は再び繰り返した。
(どれだけ繰り返せば、ワタシはアナタにこの想いを伝えられるのですか)
 その答えは、未だ出ない。

【夢の中ですら思い通りにならない/セシ春】


▼ 翔春

「すきにして、いいよ」
手の震えを悟られないようにシャツの裾を握りしめる。緊張を気取られないように下を向く。声は震えなかっただろうか。自分が心から彼を求めていると、伝わっただろうか。耳にまで届く心臓の音に春歌は息を止める。
「……っ」
 彼が息を飲む気配がした。しん、と静寂が降りてきて、やがて彼は大きく息を吐いた。

【すきにして、いいよ。/翔春】


 翔が吐いたため息に春歌が顔を上げる。その瞳に浮かぶのは色欲と不安と緊張だと彼は悟った。
 待たせてしまっていると思う。一人前になるまでは春歌を抱かないと決めて、春歌もそれを受け入れたけれど、恋人でいるということはそういう欲を生むことだ。理性ではわかっていても止められない部分もあるだろう。
(俺だって――)
 けれど、駄目だ。
 不安の浮かぶ目で自分を見上げてくる春歌を今求められるまま抱けば、目茶苦茶にしてしまう気がする。だから翔はひとつ苦く笑いかけた。情けなくてごめんな、と心の中で謝罪して、翔は口を開いた。

【急がなくていいよ/翔春】


▼ 嶺春

「ねぇ、春歌ちゃん」
 その声はいつもの響きと変わらないのに、感じるのは冷たさだった。その冷たさに触れて凍りついた身体は壁際に追い詰められる。ずい、と近づいてきた顔に見えたのは、怒りだ。
「ああ、ごめんね。ぼく、春歌ちゃんに対して怒っているわけじゃないんだよ?」
 だから、質問に答えてね、と。嶺二はにこり笑う。けれど、彼が纏う冷たいものは消えなかった。「……ねぇ、春歌ちゃん。さっき――」

【一緒に居たのは誰?/嶺春】


▼ 蘭春

『蘭丸さん、あけましておめでとうございます。今年もどうぞ、よろしくお願いいたします。カウントダウンライブ、拝見しました。今日の蘭丸さんは本当にかっこよくて、ドキドキして眠れそうにありません。あっ、今日のというのはいつもはかっこよくないという意味ではなくて、いつにも増してかっこいいということで、ええと、蘭丸さんはいつもかっこよくて素敵で、すみません長くなりすぎました!失礼しました!気をつけてお帰りになってください 春歌』
「…………」
「あれ?ランランどうしたの机に突っ伏して」
「なんでもねぇ……今日は眠れそうにねぇなと思っただけだ……」
「眠らせてあげられないの間違いじゃなくて?」
「うるせぇぶっ飛ばすぞてめぇ!」
「うわランランこっわ!でも否定はしないんだね」
「…………」
「無言で目逸らしは肯定だよ、ランラン?」

【ドキドキして眠れない/蘭春】






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