12/9 シモーネとフェル(アルカナ)



・シモーネさんとお嬢
・誰か×フェル←シモーネ
・シモーネさんの想いは過去のことになってます


_ _ _ _ _


「お嬢ってほんと、素直でカワイイわよね」
 にこにこと人好きする笑みを浮かべながらシモーネは言った。
 バールのテーブルに頬杖をつくその姿は、男性らしいかといえば答えはNonで、女性めいているかといえばそれも違う。中性的、それが最も相応しい表現なんだと思う。
 一度聞いたら忘れない、と評されるシモーネの言葉遣い。慣れたと思っていたけれど、私はどきりとさせられた。多分、内容が内容だったからだろう。
「……どうしたの?突然」
「あら、いけなかった?」
 優雅にカップを手にしてシモーネは笑う。カッフェを一口、口にすると、なんとなく言いたくなったのよと言った。カッフェの香りがほんのり届く。甘い匂いがした。
「ルカはお嬢のこと、昔は素直だったのにー、なんて言うけど。私からしたらお嬢は素直で、真っすぐで、ひたむきで、とってもカワイイ。眩しいくらい」
「えっと……あ、ありがとう…?」
 どう応えるのが正解なのかわからなくて、疑問形になってしまう。けれどシモーネはからりと笑って、そんなお嬢もカワイイわと言った。頬が熱くなってくる。
「シモーネ……」
「照れてるの?ふふ、ますますカワイイ!」
「あんまりからかわないで…!」
「からかってるつもりなんてないわ。素直に思ったことを口にしているだけ。そうやって自分に素直になれていたら――」
 ふっ、と。シモーネはそこで口をつぐんだ。
 表情は変わらなかったけれど、微かに瞳が揺らいだ気がした。何かあったのかな。どうしたのと口を開きかけた瞬間、シモーネはいつもの調子で話を再開する。
「そういえば、先月開店したレストランでね」
 だから私は気づかなかった。シモーネが何を言いかけたのか、何故、続きを言わなかったのか。その理由がすべて私にあったことに、私は気づかなかった。気づけ、なかった。


――――――――――


 お嬢が私の話に笑ってくれている。小さく肩を震わせて、小鳥が囀るみたいに。
 そんな様子も可愛いと思いながら、私は内心安堵していた。私が言いかけて止めたその先に踏み込まれる心配はもうなさそうだと。お嬢にはっきり問われていたら、誤魔化す自信がなかったから、本当に良かったと思う。お嬢にいらぬ憂いを抱かせずに済んだことが何より嬉しかった。
(ありがとう、お嬢)
 誤魔化されてくれて、ありがとう。忘れてくれて、ありがとう。そしてそのまま、知らぬままでいて。私はそう願った。
 お嬢があの男の隣を歩いていくことを選んだ時、さよならした想い。もし、お嬢が彼に出会う前に、私が自分の想いに素直になれていたなら――そんな、ありえない「もしも」を抱いていたことをお嬢に知られなくて良かった。本当に、良かった。
 お嬢の左手薬指に結ばれた絆の証のきらめきを眩しく思いながら、私はひとつ笑った。素直になれなくて良かったんだと、言い聞かせながら。


【さよならさよなら、彼女のためだからもう二度と戻らないで】








prev | next

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -