大丈夫、もういいよ

沈みかけの太陽に照らされる、わたしと留三郎。誰もいない教室、使い古しのやわらかな畳の上の影は歪なひとつのかたまりになってそこにあった。わたしの肩に、彼の額が押しあてられている。彼の肩に、私の鼻先を埋めている。橙色をしたおひさまに刺された頬が熱い。背中と腰にまわる留三郎の腕が更にわたしを引き寄せる。触れ合うだけだった身体が強く密着した。

「留三郎」
「…」
「留三郎」
「ごめんな」

くぐもった声が落ちる。ごめんな、彼はそう言った。何故だろう。あぁ頬が熱い。おひさまはまだ沈まないのかな。どくん。どくん。心臓がうるさい。止まって、お願い。わたしは死んでしまう。

「留三郎」
「ん?」
「好き」
「俺もだ」
「好き」

喉が枯れるまで好き、を言い続けても良いと思った。でもやらない。わたしはそれを望まない。何度か好き、を口に出したら何故だか涙が出た。留三郎の制服が濡れてしまう。だのに止まらない。止まらない。好き、好き、好き。大好き、留三郎。この影みたいにひとつにとけてしまいたい。橙色の光がふやける。止まらない、涙も心臓も好きも。太陽が沈みきる。部屋を影が満たしていく。やっと意地悪なおひさまがいなくなった。これですべてがひとつになれる。だからきっと。


大丈夫、もういいよ


これでいいの。


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