三禁、揺らぐ事なかれ 目を開けていたら余計なことを考えてしまいそうだったから、布団を頭から被って、いらない光を遮った。 『なあ、文次郎』 いくら部屋中の灯りを消したって、障子の隙間から洩れてくる些細な月明かりが、完全な闇を阻止する。 『…俺の話、聞いて欲しい』 いつもは気にならないような微かなそれが、どうしても嫌で。 『俺…』 そんな少しの光にさえも、照らされたくなくて仕方がなかった。 『……俺さ、』 はやく眠って忘れてしまおう。 『………好きなんだ。お前の事が』 なにかの悪い冗談だ。 そうだ、あいつはいつだって、言葉の端々にいろんな皮肉や冗談を織り交ぜて、俺の事を笑って来たじゃないか。 なのに、珍しく泣きそうな顔で言ってくるもんだから、うっかり騙されそうになっているだけだ。 はやく眠って忘れてしまわなければ。 あいつの柔らかで温かな、唇の感触なんて。 ←10,000 hit |