サンタクロースにはなれないけれど
※現パロ大学生



『もんじろー、メリークルシマース!』


 朝一で送られてきた留三郎からのメールに、痛すぎる誤字発見。

 まるで狙いすましたかのようなタイミングで送られたものだから、否応無しに目覚めさせられた。
 携帯のデジタル時計には『六時』の表示。

 バイト開始の時間まで、あと三時間。

「…なんか苦しそうだな」

 誰に届くわけでもなく、そう呟いた。

「はいはい、おめでとさん、っと」

 絵文字も何も付けずに、そのまま送信。
 すると、留三郎から早々に返信が入る。

『反応が薄い!』

 おや、これはいけない。
 どうやら、相手を怒らせてしまったようだ。

「そんな事ないない」

 単純で真っ直ぐな彼に、煽るような返事を返せば、



 〜♪♪



 ほら、やっぱり。

 あまりの踊らされっぷりに自然と頬が弛んだ。
 鳴り響く、耳に慣れた着信音は留三郎が好きな曲。
 そのまま携帯を開き、耳に当てる。

「もしもし」
『な、何笑ってんだよ!』
「いやいやいや」

 留三郎の拗ねたような口調に、なぜか全身がムズ痒い幸せに包まれる。
 何だか落ち着かず、被った布団の中で、くるり、と寝返りを打った。

『今日は恋人の日じゃないですか、潮江さん』
「え?バレンタインって、まだ先だろ?」
『揚げ足取るなよー』
「おう、すまんすまん」

 それでも笑みを溢しながら布団を体に巻き付ける。
 無意識な、意味のない動作。
 冷めた部屋の中、浮わついた自分が妙に滑稽だった。

『でも今日は二人とも丸一日バイトで、すぐには逢えないし、』
「明日もバイトあるしなぁ」
『だから、こうやってメールだけでもさ。恋人気分を味わいたい、とか思ったりするわけ』
「…ふーん」
『…なに笑ってんだよ』
「いや、笑ってるのはそっちだろ」
『笑ってねぇもん』
「いやいや笑ってるって」
『……』
「……はは、」

 暫く、二人して笑い合う。




 嗚呼、どうしよう。


 今、凄く幸せかもしれない。




『あ…時間だ』
「……」

 全く、クリスマスムードの欠片もない。
 それがまた、留三郎らしくて少し愛しいのだけれど。

『じゃあな。えーっと…』
「何だ、時間無いんだろ。早く言え」

 留三郎が、一つ息を飲む音がした。

『文次郎!す、好きだぞ!』
「はいはい、サンキュ」

 そうやって、どもりながら精一杯に愛を伝えるのも、留三郎らしくて好ましい。



 結局通話はいつも通りに切られてしまったが、湧き上がる気持ちは、どうも“いつも通り”とは行かなかった。

 熱る体を起こし、布団を捲ってベッドに腰掛ける。

 ──すると、



 〜♪♪



 再び鳴り響く、耳に慣れた着信音は留三郎が好きな曲。

「もしもし?」
『ゴメン文次郎、俺、大事な事言い忘れてた!』
「?」


 メリークリスマスも聞いた。


 愛の言葉も聞いた。


 じゃあなんだ?







『今日バイト終わったら、ソッコー逢いに行くから!』







「──。え、ぁ、」



 今日は二人ともバイトで、

 そのバイトは丸一日あって、

 しかも、明日もまた朝からバイトが入っていて、


 わざわざ──、


 ……。


 …嗚呼、どうしよう。





 やっぱり、


 もの凄く、


 ……幸せだ。











「俺も…言い忘れてた」
『ん?』



 沢山の人に幸せを届ける、サンタクロースにはなれないけれど。

 この気持ちを、少しでも伝えたいから。

 気恥ずかしくて、いつもは言わないこの言葉を、今日はプレゼントさせて欲しい。





「…留三郎、好きだ」





聖夜の逢瀬まで、あと十五時間。


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