小さな鈴の音にのせて




そして幾日かが過ぎ。


「ただいまー」

しーん。

返事はない。

静かな部屋。
廊下は真っ暗。

でもちっとも寂しくない。
だって、リビングのドアを開ければ。

「もんじ!まーた部屋汚したな!」
「…………」


ほら。
ぐちゃぐちゃな部屋の向こう。
カーテンの後ろ。

姿は見えないけれど。

「…隠れてるつもりか?しっぽが出てるぞ」

獣道を通って、カーテンの方へと歩みより、下から覗く長いしっぽを足先で軽く踏む。
もちろん痛くないように。

「にゃあ゛!!」

カーテンの後ろで、驚いて飛び上がる身体に大きくため息。

「隠れるぐらいなら、どうして片付けないんだよ」
「ぎーん…」

カーテンの隙間から、反抗的な目で睨まれる。
それでも怒れない自分が、おかしい。

「ごめんなさいは?」
「………」
「ご・め・ん・な・さ・い、は?」
「…ごめ……ん…」
「全く。こんなに散らかして、一体どこで寝るつもりなんだ?」
「…とめさぶろうのベッド…」

だめか?と首を傾げる姿に、拒否なんて出来るわけもなく。

「いいけど…蹴とばすなよ?」

何度も頷き笑うもんじに、心がいっぱいになる。

…まあいいか。

明日は日曜日。
ゆっくり片付けられるし。

片付けが終わったら、町に買い物に行こうか。

二人で寝れる、もう少し大きなベッドを買いに。

新しいひらがな練習帳も見つけたから、買ってやりたい。

次はちゃんと「め」の字を書けるようになろうな?


それと。


「もんじは赤色のリボンも似合うと思うんだよな」
「?」
あれも凄く似合ってたけれど。
緑色のリボンは悔しいから。

「鈴」
「え?」
「新しいのを買ってきたんだ。リボンは明日一緒に買いに行こう。…もんじ、赤色好きか?」

驚いたもんじの顔は、一瞬にして満面の笑顔になって。

「おれ、みどり色が好きだったけどなっ」
「ああ」
「いま、あか色がいちばん好きになった!」





あの日カミサマがくれた最高の贈り物。

猫のくせに、人間で

意地っ張りで

片付けが苦手で

「め」の字が書けなくて

かくれんぼがヘタクソで



だけど

最高に愛しくて、

幸せを運んで来る天才



そんなお前に、俺は抱えきれないほどの幸せをもらっているから

「もんじ、」

だから。
俺にも言わせて欲しい。

「ぎん?」

少し恥ずかしいけれど、お前がいつも幸せを感じてくれるように。





「ずっと、一緒にいような!」



心からの言葉と、精一杯の気持ちを届けよう。



「…ぜったいだぞ、とめさぶろう!」



嬉しそうに頷く度、微かに揺れる赤いリボンと


チリン。


その小さな、鈴の音にのせて。





END.


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