小さな鈴の音にのせて




「……っっ!!」

聞こえた。
今度は空耳なんかじゃない。
涙が溢れそうになって、袖で拭う。
鈴の音がしたのはあの部屋から。

最後。

もんじが手紙を残して後にした…

「もんじっ!!」
「………あ、」

ドアを開けると、涙で歪んだ視界に飛び込んでくるもんじの姿。
八の字に下がった眉と、伏せた耳が真っ先に目に入った。

「…………」
「もんじ…何で…」
「……どうしてもこれ…欲しくて…」

そう言って、胸に大事そうに抱かれたものは。




もうボロボロになってしまった

『ひらがなれんしゅうちょう』



…こんなもののために?

「とめさぶろうがはじめて買ってくれた…」
「うん…」
「…おれのたからもの」

チリン。

思いきり抱きしめた勢いで、響く鈴の音。

「もんじ…っ!」

ああ、涙声だ。
でも、ちっとも恥ずかしくない。

「もんじ…もんじ…!」

“愛しい”

これ以外に言葉が浮かばない。


「とめさぶろう、はなして…」


俺の胸の中で、必死に突っ張る手。
微かに震える身体がなんだか悲しくて、思わず言う通りに離れた。

「…………」

くしゃくしゃになったドリルを床に置いて、手で皺を伸ばすもんじ。
…もう、皺は伸びているのに。

何度も何度も。

「…………」

悲しげな横顔から、痛いほど伝わる気持ち。

本当は、
これからもココに居たいんだろ?

でも、言い出せないでいる。
もんじも、俺も。

「…………」
「…………」
いつまでも続くんじゃないか、と思う沈黙を、先に破ったのはもんじだった。

「……っ…」

ポタ。

透明な雫が、ドリルの上に落ちて弾ける。
次々と、沈黙を破るように音を立てて。

「もんじっ…」

チリン。

もう一度。
引き寄せると、素直に胸の中に収まる身体。

もともと小さな身体が、さっきよりもずっと小さく感じた。

「うぇっ…くっ…」
「もんじ…」
「もう、捨てられるのはいやだ…」

もんじが、まるで独り言のように小さく呟いた。
それはそれは、悲しい声で。

「一人で暗いとこで…寝て…腹減って…寂しくても誰も傍にいなくて…」
「うん…」

想像しただけで泣きそうになるのは
きっともんじの悲しみが、俺の胸に流れこんできているから。

「捨てられるの…ひとりになるの、いやなのにっ…」
「………」

背中に回されたもんじの腕に力が入り、つられて抱きしめる腕にも力がこもる。

「それでもおれ、」

ぐしゃぐしゃの顔をあげたもんじと、目が合う。





「とめさぶろうの、そばにいたい…っ!」


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