小さな鈴の音にのせて




「もんじー!」

仕事帰りに、すでに日課となったもんじ探し。
もんじはお金を持ってないから、行動出来る範囲は狭いはずだ。
そう目論んで、捜索範囲は町内一円に絞った。

駅前の広場
路地裏
商店街
小さな公園
ショッピングモールの駐車場

小さな町だから、もんじが隠れられるような場所は限られてくるはずなのに。

「…いない…な」

本当に、どこへ行ってしまったんだろう。


「もんじー!」

やっぱり、返事はない。

「…………」

もう、帰って来ないつもりなんだろうか?

二週間。
他の人に拾われてる可能性だってある。
そろそろ、捜索も辞めたほうがいいのかもしれない。

「帰ろう…」

今日までにしよう。
もしかしたらもんじは、他に幸せを見つけたのかもしれない。
もしそうだとしたら、いつまでも探されても迷惑だろう。

「部屋も、片付けなきゃな…」

最後の手紙も、ひらがなドリルも。
帰ったら全部押入れの奥に片付けてしまおう。

寂しいけれど、それを見る度にもんじの事を思い出してしまうから。

「はあ…」

俺は大きくため息をついて、重い足取りで家路についた。


「ただいま」

ガチャ。

いつもんじが帰って来てもいいようにと、ずっと鍵をかけなかった玄関。
今までよく泥棒が入らなかったものだ、と苦笑。
誰もいない静かで、真っ暗な廊下。
歩くとギシっと音を立てる。
そして




チリン。



もう二度と聞くことができなかったはずの

微かな鈴の音。


まさか。

まさか
まさか
まさか



高鳴る心臓。
震える手で、リビングのドアを開く。


…いない。


定位置のソファにも
テレビの前にも
悪いことをしたときに隠れていた、カーテンの裏にも

「もんじ…」

…どこだ?

まさか…空耳か?




チリン。


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