小さな鈴の音にのせて




「留三郎、あれから彼女どうなった?」

仕事帰り。
そそくさと帰る準備をしていた俺に、伊作がホクホクと聞いてきた。

「ああ…」

そういえば、あれから連絡はない。
まぁ、当たり前だな。
俺も今まで忘れていたし。

「駄目になった」

そう言って笑う。
だって、ちっとも悲しくなんてない。

「ええ!?何で?」
「俺、別に好きな人が出来たんだ」

鳩が豆鉄砲を食らった顔。
今の伊作は、まさにそんな顔をしている。

「ええ!?そうなの?」
「ああ」
「どこで出会ったのさ!そんな子!」
「……どこって…」

拾いました。
とは、さすがに言えないけど。

そうだな。

あいつはもしかしたら、

「カミサマの贈り物だったのかもな」



ずっと勘違いをしていた。

あの日
カミサマがくれた最高の贈り物は、可愛い彼女なんかじゃなくて

意地っ張りで
素直じゃなくて

だけど

誰よりも頑張りやで
誰よりも寂しがりやな

可愛い可愛い
そんな猫だったんだ。



「じゃあ、その意中の人とはどうなってるの?」
「うーん…」
「あらら。上手くいってないんだ」
「なんつーか…喧嘩、しちゃってだな…」

本当に、どこへ行ってしまったんだろうか。

あれから毎日寝る間を惜しんで探したけれど、何一つ手がかりはない。
こういうとき、警察に届けられないのが物凄く不便だ。

「謝り…たいんだけどなぁ」

戻って来て欲しいんだ。

お前が好きだったジュースも

ソファのクッションも

おもちゃにしていた古い算盤も

ひらがなれんしゅうちょうも

全部そのままにして、待っているから。



俺の元に、戻って来て欲しいんだ。


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