羽雪




 掴もうとすれば掴もうとするほど

 手の中からすり抜けてゆく。

 僕にとって

 貴方は、そんな存在なんです。






「見て下さい潮江先輩、雪が積ってますよ」

「こら団蔵。せっかく暖まったばかりなのだから、窓を開けるな」

「先輩って、結構寒がりですよね。寒いなら、僕が暖めてあげますよ?」

「……妙な言葉ばかり覚えおって」

「あ、」






 するり。

 ほら

 そうやって。

 いつも貴方は、僕からすり抜けていってしまう。

 たとえ仮に、貴方を捕まえられる術があるとしても

 僕にはその方法が解らないままなのです。






「雪ってなんか、先輩みたいですね」

「は?」

「だって、捕まえようとすると逃げちゃうじゃないですか」

「そうか?」

「そうです」

「…違うと思うがな」

「違う?」

「溶けた雪は永遠に戻って来ない」

「………」

「でも俺は、ちゃんと戻って来るぞ」






 お前の居場所なんて、お見通しだからな

 と。

 貴方は、はにかむ様に笑った。






「……どうして先輩って、そんなに可愛いんですか?」

「お前の目は節穴だな。そもそも目上の者に向かって『可愛い』とは何事だ」

「すみません。でも実際、可愛いから仕方ないですよ」

「………」






 ひらり

 ひらり。






 僕が永遠に追い掛けっこしていた相手は

 もしかしたら、貴方の影だったのかもしれない。

 だって貴方はこんなにも近くにいて

 僕を想ってくれているのだから。






「……先輩?」

「寒い。……もっとこっち来い」






 掴もうとすれば掴もうとするほど

 手の中からすり抜けてゆく。




 だけど。

 いざ触れることが出来れば

 こんなにも柔らかで

 こんなにも暖かく

 僕の心を溶かしてくれる。




 大袈裟かもしれませんが。

 僕にとって

 貴方は、そんな存在なんです。


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