口実 ※クリスマスだけど室町留文(両片思い)。 ※時代考証なんて無い。 ※クリスマス=恋人といちゃつく日と思っている二人。 『クリスマス』なんて、ただの口実にしかならない。 だって不器用同士、そうするしかないだろう? *** 「なぁ文次郎。クリスマス一緒に過ごさないか?」 「………お前の発言の意味するところが分からんのだが」 「長次に聞いたところによると、実際はイブの方が盛り上がるらしいな。でも、それってなんでなんだ?」 「今更だが、話の飛躍が過ぎる」 「なんで。まんまクリスマスの話題だろ」 「お前が今話したのはイブの話とやらだ」 「細かいな、おい!」 …上記はつい半日前の、廊下でのやりとり。 この時点で始業の鐘が鳴ったため、留三郎との話は中途半端なまま終わってしまった。 その後、留三郎とは何度かすれ違ったが、何となく間が悪くて、結局話の結論を出さぬまま夜を迎えている。 鍛錬ついでに出掛け、学園へ帰る道すがら、ふと立ち止まって空を見上げた。 やけに明るい月にかき消されたような、そんな微かな光で瞬く星に視線を泳がせる。 ただ風が通り過ぎる音を右から左へ聞き流すうちに、別の音が混ざる違和感を覚えた。 それが、自分のよく知った男の声だと気付くのに、不覚にも一瞬の時間がかかる。 当てつけのように、あえてゆっくり振り返ると、何となく得意気な顔の留三郎がこちらに向かって歩いてくる姿が見えた。 「……山賊…いや、ただの不審者か」 「……なんか、前も無かったか?同じようなやりとり」 そんなことより、留三郎の頭に乗った赤いものの方が気になる。 「ん?気になるか?どうだこの帽子?」 何だか知らないが、彼はいわゆるサンタ帽をかぶっていた。 「……それ、まさかの自作か?」 「ご名答。どうだ?似合うか?」 「ああ、似合う似合う」 おざなりにそう言ったのに、留三郎は妙に嬉しそうな顔をした。 お前のマヌケ面によく似合っているな、と言ってやるつもりだったのに、なぜかその言葉が出て来なかった。 「はっぴーくりすまーす」 彼は少しおどけて片手を上げる。 そんな陽気さには是非とも正反対の態度で接したい。 「いや、全然なんだが。お前に会った時点で」 「酷ぇ」 「だいたい何に使うんだ、そんな帽子」 「喜ぶだろ、下級生が」 二人だけで話をすると大概は収集がつかなくなる。 かといって、他に友人や誰かが一緒に居る時は、殆んどその人を媒介にしてしか話をしない。 「何なんだよ」 「だからクリスマスを一緒に過ごそうと」 「あと半刻だが」 「人は時間がないときの方が効率よく能力を発揮する、」 「いやそうとも限らない」 二人の関係は、と問われても返答に困るのは目に見えている。 長次は、クリスマスは恋人と共に過ごす日らしい、と言っていた。 書物に書いてあったというし、間違いないのだろう。 だが、それを定義づけたのは誰だ。 こんなところで付け加えると言い訳がましいが、もちろん彼とは恋人同士であるわけではない。 先刻も言ったように、二人の関係を言葉で簡略に表現するのは難しい。 「まぁつまりだな、文次郎。俺は、クリスマス越しがしたいわけだ」 「年越しならぬ?」 「ん、まあ、ただ一日が終わるだけなんだけど、ちょっとお前と過ごしたいと思ったんだ」 「…寂しがりが全面に押し出されてるな」 「そうじゃねぇよ、俺は純粋にお前と過ごしたいんだ」 「そういう発言は将来貰う嫁さんのためにとっておけよ」 「うん。だから、お前」 「……」 「……今日はお前と過ごしたい」 「…冗談言うな」 「本気だと言ったら?」 「……」 「……ホント自覚無し?」 一部訂正。 "少なくとも俺は"、 俺と彼が恋人同士で"あるはずがない"、と "思い込んでいる"。 「なかなか、上手くいかないもんだな」 「………」 まあ、だいたいの発言は言い訳とか口実に過ぎないわけで、クリスマスがどうのと言うのでさえ、話をする口実だ。 だって不器用同士、こうするしかないだろう? 沈黙の中、留三郎は困ったように一瞬笑った。 続けて、ばん、と背中を叩かれる。 「そんな、難しい顔するなよ。…とりあえず、学園帰ろうぜ。お前の分の夕飯、まだ残ってるし」 「…そうだな」 夕飯をまだ食べていないから、留三郎の帽子が月夜に悪目立ちするから、寒いし立ち話もなんだから。 今日という実は特別かつ平凡な日にさえも、いちいち言い訳をしながら。 あと僅かで、過ぎた昨日に塗りかえられていく。 *** 本当は、『クリスマス』なんて、ただの口実にしかならない。 だけど不器用同士。 こうするしかないだろう、なんて。 それすらも、きっと口実。 一緒にいるための、不器用なただの口実。 ←main |