愛しい貴方に、愛の花束を。




奥の方にだけ明かりのついた店。

勢い良くドアを開けて中に入ると、文次郎が驚いた顔でこっちを見た。

「よぉ、」なんて。

入ってきたのが俺だとわかって安心したのか…もう、こっちが嬉しくなるような柔らかな顔で笑ってくれて。

会わなかった時間はたった五日だけなのに、随分と長い間会えなかったみたいな気がして、胸の奥がキュンとした。


やっぱり俺、文次郎の事が好きだ。


一瞬、

だけど強く、

そんな事を思う。


俺は何も言わないまま文次郎の傍まで駆け寄ると腕を掴み、その体を思い切り自分の方へと引き寄せた。

「なにっ…?」

不意のことによろけた文次郎の体を、両手で抱き込むように支える。
目の前では大きな瞳が俺を見て瞬いた。

「なんだよ突然……というかお前、なんでそんな息きれてんだ?」
「早く会いたくて走ってきたから」

早口で言うと文次郎は俺の言葉に少しだけ笑い、そっと睫毛を伏せてしまった。

「…じゃあ、なんで連絡もよこさなかったんだよ」


小さな声で呟く姿に、やっぱり心配してくれてたんだなんて今更ながら反省してみるけれど…。


「ごめん」


こんな言葉じゃ足りないって事くらい分かっているんだ。

だけど、どうしていいかも分からなくって。

俺は文次郎の頬を、右手でそっと撫でた。


「本当に、ごめん」

「…なんで会いにも来なかったんだ」

「うん…それも、ごめん」

「散々人の事好きだとかなんとか言ってたくせに、いきなりほったらかしにやがって」

「………文次郎?」

「これじゃ俺だけがお前に会いたくて、不安になって……なんか俺、バカみたいじゃねぇか」


………え?


「えぇ!?」


今なんてっ!?


「あのっ、えと…え?」

自分の耳を疑ってしまう。

だって文次郎が…まさか、

「……」

「……」

いやいや、二人で黙ってどうすんだよ!


「…俺、あの日、二人が仲良さそうなの見て……嫉妬した」

「え?」

顔を上げた文次郎と目が合って、ニコリと笑いかけて話を続ける。

「…なんかさ、文次郎の一番になりたくて、でも全然なれてない自分に気付いて苛立ったりして。それで…嫉妬したり自己嫌悪に陥ったり、そんな自分が情けなくて会いに来れなかったって訳」

本当、格好悪い。

でも、これが俺なんだ。


「…お前、バカじゃねえの?」


…あ、いや、そうハッキリ言われても。


「もっと自信持てよ」


はい…。


はい!?



「…それってどういう意味?」

真っすぐ俺を見つめる瞳に胸がドキドキした。

もしかしたら、文次郎の肩を掴んだ手は少し震えていたかもしれない。

そのくらい、緊張していたんだと思う。

「お前だけじゃないって事、」

「うん…」

お願い。

早く続きを聞かせて欲しい。

「だから、俺もお前を」

「うん」

だって早とちりで抱き締めてしまったら、それこそ格好悪いじゃないか。

「その、」

「うん」


お願い早く、




「好きなんだよ……っ!?と、留三郎!?」



我慢なんて出来なくて思い切り抱き締めた。

腕の中で文次郎が慌てているけど、そんなの構わない。

「大好きっ」

「…お前、行動がいつも突然すぎんだよな」

そんな事を言いながらも腕の中に納まったままの文次郎が愛しくて。

そっと体を離してその目を見つめた。

「ずっと、ずっと好きだったんだ」

「…そりゃまぁ…知ってる」

「毎日、お前の事ばかり考えてた」

「…そりゃどうも」

「どんどん好きになって、困ってたんだぞ」

「それは悪かったな…?ん?ちょっと違うか」

首を傾げる文次郎のおでこに自分のおでこをピタリとくっつけ、頬に手を添えた。

それだけで、魔法をかけたかのように。

二人静かに見つめ合う。



「ねぇ、キスしてもいい?」



そう言うと照れたように瞬きをして、ちょっぴり笑う。


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