睦言スノーホワイト
※現パロ大学生
(雪壬様宛て捧物)
快哉シンデレラの続き
※単品でも読めます



「ん…」

 もそもそと隣で動く気配を感じ、留三郎はふと目を覚ました。

「…お、留三郎。起きたか?」

 耳元から、文次郎のどこか嬉しそうな声が聞こえる。
 まだ半分夢の中にいる留三郎とは反対に、どうやら文次郎は完全にお目覚めモードらしい。

「んー…」

 今すぐにでも抱きしめてやりたいところだが、身体はまだ眠りたいと言っている。
 目眩く一夜を越えて、文次郎と迎えるせっかくの朝。
 もう少し、こうやって布団の中でぬくぬくしていたい。

「…あれ、やっぱりまだ寝てんのか?留三郎」

 うん、寝てます。
 今日はバイトも大学もない、せっかくの休日なんだから。
 文次郎も大人しく、もう一度寝よう、な?

「…つまらん」

 昨夜に引き続き、子供みたいな我が儘を言う文次郎。

 ……これは困った。

 留三郎の中で、今すぐ文次郎を抱きしめたい気持ちと穏やかに眠りたい気持ちが、天秤に乗って揺れ動く。

「〜♪」

 相手にしてもらえなかった文次郎は、小さな声で鼻唄を歌いながら、自分の頭の下にあった留三郎の手を使って遊び始めた。
 指を一本ずつ折り曲げてみたり。
 痛くない程度に指の股を割ってみたり。
 手を合わせて大きさを比べっこしてみたり。

「まーだ起きねぇの?」
「………」
「…反応なし、か。そんなに疲れてんのか?…そういえば、最近バイト忙しそうだったしな……………まさか、死んでないよな…」

 ………。

 って、そんなわけないだろ!

 冗談とも本気とも取れない言葉に思わず突っ込みを入れてしまいそうだったが、留三郎は寸でのところでそれを留めた。

 危ない危ない。
 今起きたら、きっと今日は二度と眠らせてもらえなくなってしまう。

 しかし、今やすっかり“かまってちゃんモード”な文次郎の前では、留三郎はもはやなす術がない。





「おーい、とめさぶろー」

 ………。

「つまらーん」

 ………。

「かまえー」

 ………。

「………さみしー」

 ………。





 ………抱きしめたくて、つい手が震える。

 ああもう、思いっきりギュッ!とかチュッ!とかしたい!

 そんな留三郎の心を知ってか知らずか、文次郎は一つ溜息をついた。

「…いつまで経っても起きない、お前みたいな奴には…」

 そして腕にギュッと抱きつかれて、

「…こうしてやるっ」



 手のひらにチュッとキスされた。



 まさに以心伝心。
 もしくは、愛のテレパシーって奴?

「……むう、まだ起きないのか…」

 文次郎が上半身を起こして、留三郎の顔を覗きこんだ。
 留三郎の体に、緊張が走る。
 そんなにマジマジと見られたら、狸寝入りがバレてしまいそうだ。

「………それならちょっと、せっかくだし……十秒だけ、起きるなよ?」



 感じたのは、チュッ…と瞼に柔らかい感触。


そして、





「留三郎、」





 聞き取れないほどの小さな声の後、





「大好き、だ」





 唇に降りてきた熱。





 文次郎は唇を離すと、照れ隠しのように慌てて留三郎の胸に顔を埋めた。

「………」

 胸に感じる熱い頬とか、しがみつくように抱きついて離れない腕とか。

 文次郎の身体全部で、大好きと言われているようで。








「………完敗だ」

 文次郎との根気比べ。
 まぁ、勝ったことなんて一度もないけれど。

「な?文次郎…」
「………」

 ん?

「ぐぅ…」

 …って、おいおいおい、マジかよ!
 今度は寝ちゃってるよこの人!
 散々、人の眠りを邪魔しておいて!

「あーあ…仕方ないな…」

 留三郎は優しい手付きで、よしよしと、眠る文次郎の頭を撫でる。

 まあ、いいか…。
 実はちょっと重いけど。
 昨夜はたくさん不安にさせてしまったから、胸ぐらい好きに使ってくれて構わない。



 だから、








「今度お前が起きたら、力一杯ギュッって抱き締めあって、唇が溶けるほどたくさんのキスをしよう、な?」








 まぁ、とりあえず。




「文次郎、」




 予行演習として、おでこにチュッ。




「俺も、大好き」




 囁くような留三郎のその言葉に。

 眠っているはずの文次郎の腕の力が。

 なぜだかギュッと、強くなった気がした。



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