シアワセ探し




 どうしよう、どうしよう、どうしよう、

 好きだ、好きだ、好きだ、

「……い、」

 この気持ちを伝えたい、でも、伝えられない、

「…おい……ろう…」

 言うべきだ、だけど、言った所で、俺とお前はすぐに離れ離れだ、

「とめ……う」

 どうしたらいい、どうしたらいい、嗚呼俺はどうしたらいい、

「おい!無視するなこの馬鹿留三郎ッ!」
「も、文次郎!?」
「おーおー、喧嘩の途中に別の事を考えるとは、いい度胸だな」

文次郎は腕を組んだ仁王立ちの状態でそう言い、留三郎の頭を軽く小突いた。



***



 自分の気持ちに気付いてしまえば、転がり落ちるのは早かった。
 四六時中とは言えずとも、ふとした瞬間に文次郎の顔が浮かぶようにすらなっていた。

 しかし、と、留三郎は考える。

 卒業前のこんな時期に、告白して一体どうなる?
 二人とも、すでに就職先は決まっている。
 卒業すれば、留三郎はとある城の下忍になる。
 いわゆる弱小勢力のその城には、新しい忍者を大量に雇う余裕はない。
 今回、その城で新しく下忍として働き始めるのは留三郎だけだと、先日先輩忍者から聞かされたところだ。

 だから。
 万が一想いが通じたとしても、二人はきっと、敵同士にしかならない。

「…まあ、想いが通じ合うこと自体、ありえないと思うけど…」
「何をブツブツ言っているんだ?」
「いや、なんでもない」
「さっきのは、完全なる注意力散漫だぞ。どうしたんだよ、留三郎。もうすぐ卒業だってのに、そんなんじゃプロとしてやっていけないぞ!」

 口うるさく、怒っているような口調は、留三郎のことを心配する気持ちの裏返しだろう。


 コイツのこういう、分かりづらい優しさが好きだな。


 そう思ってから、留三郎は顔を上げた。

「なあ、文次郎」
「何だ?」

 流れる汗を乱暴に拭う仕草に、目を奪われる。

「お前、どこの城に就職するんだ?」
「……何でそんな事を聞くんだ?」

 そう言って俯く表情が、前髪から滴り落ちる汗で滲む。

 もしかしたら、文次郎の留三郎の就職する城と同盟を結んでいる城かもしれない。
 そんな微かな希望を抱いての問いだった。

「知りたいから」
「だから、何で知りたいんだよ」

 堂々巡りの押し問答に、文次郎は少し焦れたように声を詰まらせた。

 留三郎の口が、微かに開き、










“好きだから、だよ”








 そんな想いは言葉に乗せられず、結局そのまま閉じられた。



***



 好きだ、好きだ、好きだ、お前の事が、大好きだ。

 だけど。

 俺と、お前は、一緒にはいられないから。

 だから。

 心の奥底に、この気持ちは閉じ込めるんだ。

 俺と、お前の、シアワセのために。



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