いらっしゃい、僕の星へ!



 ん?何だ?

 留三郎がたまたま六年い組の部屋の前を通ると、珍しいことに襖が開きっぱなしになっていた。
 不思議に思って中を覗くと、そこにはなぜか、静かに正座で膝を寄せ合う同級生たち。

 一体何事かと驚いた留三郎は、彼らの関心事が何なのか分からないまま部屋へと入った。


「?」


 ひょい、と覗くとそこには、


「!?」


 文次郎が横になり、眠っていた。


「なっ、なに見てるんだよ!?」


 声を発した途端、みんなにシーッと指を立てられて。


「いやいや!『シーッ』じゃないだろ!?」


 反論した留三郎には目もくれず、


「こいつが此処まで静かに寝るのは珍しい」
「文次郎の寝顔って滅多に見れないからな!」
「まつげ…長い」
「ちょっと開いてる口が可愛いね」


と、好き勝手に(でもこそこそと)話す同級生たち。


 コラコラ!
 俺の文次郎を勝手に見るなー!

 …と思っても、さすがに此処でそれを言うのもちょっと…。


「しっかし、よく寝てるなー」
「疲れてるんじゃないのか?」


 そりゃね、朝まで寝かせなかったですから。

 …なんて事は、やっぱり言えません。


「でも、そろそろ起こさなきゃじゃない?夕飯の時間だよ?」
「…もそ」
「いや待て。普通に起こすのでは面白くない」


 おいおい、お前こそちょっと待て仙蔵。


「あ、口吸いして起こすのとかどうだろう!」
「面白い!」
「…賛成」
「なにそれ男らしい!」


 はぁー!?


「な、何言ってんだ!そんな事したら殺されるぞ!?」


 留三郎が慌てて止めに入るも、振り返り微笑むのはドSの親玉立花仙蔵。


「じゃあ留三郎、お前がしろ」
「じゃあ、の意味が分からないんだけど!?」
「うん、それがいい!」
「留三郎…グッドラック…」
「頑張ってー!君ならいける!」


 そう口々に言いながら、留三郎を文次郎の前に連れて行こうとする同級生一同。


「で、出来るわけないだろ!?」


 人前でなんてしたら殴り倒されるに決まってる!

 留三郎が一人あわあわと混乱していると、


「なら、私がやる!」


と言いながら、小平太が文次郎に近づいたので、慌てて腕を引っ張り制止した。


「しょ、しょうがないな!俺がする!してやるよ!」


 他のヤツにされるくらいなら殴られる方がマシだ!

 相変わらず起きる気配がない文次郎の顔を覗き込む。



「これで目覚めたら面白いな」

 面白いのはお前だけだ仙蔵!

「そういう話、知ってるよ。えーっと、確か『眠り姫』だっけ?」

 おい伊作、なぜそうなる!?

「いや…『白雪姫』も…この展開だ…」

 煽るな長次!

「じゃあ文次郎は『ギンギン姫』だな!」

 小平太はドヤ顔やめろ!



「ちょっと黙れ外野!」

 留三郎がそう叫ぶと、急に静かになる外野。

 …しかし、これはこれでやりにくい。
 っていうか、何でこんな事になってるんだ?

 そんな疑問を抱きつつ。


 だんだんと顔を近付けて、唇まであとコブシ一つ分…



 …のところで文次郎の目がフッと開いた。




「…とめ?」



 かすかに留三郎の名前を呼んでから、首に回される腕。



「文次郎!ちょ、待っ‥」



 そして次の瞬間、唇には温かな感触。












「んっ…これであと五分、寝かせろぉ…」





 パタッと落ちる腕。

 再び閉じられる目蓋。



 恐る恐る振り返ると、皆が腕組をして留三郎を見ている。


「あー…文次郎、寝呆けてたみたいだな…」


 あはは、と笑ってみたけれど。

 周りには乾いた空気が流れていくのみ。


「文次郎から口吸い…だと?」
「変なことを文次郎に教えるな、留三郎!」
「ふへへへへへへ!」
「保健委員長として言わせて貰う!避妊はちゃんとするんだよ!」


 いっきに責め立てられる俺(約一名ベクトルがおかしいが、気にしている場合ではない)。

 泣きそうになってもう一度文次郎を見れば、スースーと寝息を立てながら気持ち良さげに眠る姿が。


 こ、こいつ…!


「留三郎、わかってるな?」
「説明しろ!」
「………」
「あ、罰として夕飯奢りとかどうかな?」


 ええっ!?


「お、お前たちが最初にしろって言ったんだろ!?」

「「「「奢り決定!」」」」







「でも俺、何も悪くないだろ!?」
「留三郎…これが不運の星の下に生まれた僕達の宿命だよ」
「伊作…。ってオイ!俺の奢った夕飯を租借しながら言われても説得力無いんですけど!?」
「いらっしゃい、不運の星へ!そして永住おめでとう!」
「いいいいやあああだああああああ!」

 そんなこんなで、その日留三郎が散々いじめられたのは言うまでもない。


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