小話
2013/02/09 17:29

たまに列車で遠出をするのが、俺は結構好きだったりする。



「文次郎!この駅弁滅茶苦茶美味いぞ!」

欲を言えば、隣で大人げなくはしゃぐ奴がもう少し静かなら、言う事無しなんだが。

「よし、俺が食べさせてやる!はい、あ〜ん…」
「留三郎、さっきからうるさい」

体良くあしらうと、膨れた顔で「つれない」だの「ケチ」だの「器が小さい」だのと愚痴を言い、それから「お前の実力ってそんなもんか?」「文次郎って実は結構ヘタレなんだなぁ」と分かりやすい挑発を仕掛けてくる。
多分留三郎は、俺が「なんだと!?じゃあ食べてやる!」と反論するのを期待しているのだろうが、その手には乗らない。

「……」
「……なあ、もんじろお……」

本当、うるさい奴。
移動時間が長いんだから、黙って寝ていればいいのに。

「暇だあー…あ、トランプやろうぜっ!」
「あーもう!どうしてお前はそう発想が修学旅行生並なんだ!」
「俺が勝ったら、キス一回!」
「おい、俺の話聞けよ!」
「逆に俺が負けたら、今夜たくさんの愛をプレゼント!」
「よーし分かった。つまり勝っても負けても、俺にはなんの得もないって事か。…絶対やらない!」
「つれない!つれないぞ文次郎!」

そんな風にだらだらと話しているうち、自然と会話が途切れて隣から寝息が聞こえてきた。
横を見ると、まぬけに口をぽかんと開けて寝ている留三郎。

…おもしろい寝顔だな、おい。

うるさいのが静かになったところで、俺は窓の外の流れる景色を見始めた。

こうやって、窓の外をぼんやりと眺めるのが好きだ。
理由はわからないが、なんとなく穏やかな気分になってくる。

ふと、空に一筋の飛行機雲を見つけた。

…きれいだな。

薄くなっていく飛行機雲を追いながら目を細め、そんな事をふと思う。









「飛行機雲がきれいだな」

その時、隣で寝ていた奴が俺に身を寄せて、いきなりこんな事を言ってきた。

「留三郎?お前、寝てたんじゃないのか?」

いきなり声をかけられて不覚にも驚いた。
それに、正直、俺以外の人が見てるとは思わなかったし。

「寝てたけど、文次郎がなに見てるのか気になって」

恥ずかしげもなく、そんなことを口にする留三郎。

飛行機雲を見て微かに笑うと、また寝る体制をとって、あろう事か頭を俺の肩に乗せてきた。

「…こら、重いだろ」
「俺、頭いいから脳味噌が多くて」
「ぬかせ」
「酷っ」

留三郎は笑いながらそう言って、気持ち良さそうに目を閉じる。

「……俺の肩が痛くなるまでだぞ」
「お前鍛えてるから、終点までいけるだろ?」
「………当たり前だ」

わざと留三郎の挑発に乗るなんて、自分らしくないけれど。
俺は肩に留三郎のぬくもりを感じながら、再び穏やかな気分で飛行機雲を眺め始めた。