小話
2012/12/11 23:54

信号待ち中。
偶然見えた景色が始まり。

「クリスマス…文次郎と一緒がいいな」
「…なんだよ、急に」

俺が回したバイクのスロット音と、そのバイクの後部座席に座る文次郎の声が、走り出した冷たい風に乗って耳に届いた。

「いや…街がさ、クリスマス一色だと思って」
「実際は三色だけどな」
「…はぁ」
「なんだよ、留三郎。ヘルメット越しでも分かるぐらい、これ見よがしに溜息なんか吐きやがって」
「…お前って、ホント天邪鬼」

目の前の信号が赤に変わり、再び一時停車。

「俺が天邪鬼?そうでもないだろ?」
「どこがだよ」

俺はもう一度、盛大に溜息を吐く。
それと同時に、後部座席に座る文次郎が、運転席に座る俺の背中にそっと腕を回し、抱きついた。


「だってクリスマス、お前と一緒にいてぇもん」


少し拗ねたような声と、背中に感じる微かな体温。

「………」
「留三郎、信号青になった」
「え、ああ、うん」
「……………今年は俺、バイトの休み貰ったから」

俺が回したバイクのスロット音と、そのバイクの後部座席に座る文次郎の声が、走り出した冷たい風に乗って耳に届いた。

信号待ち中。
偶然見えた景色が始まり。