多分、最初で最後の文食満小説。
2012/06/14 08:38

俺と文次郎は恋人同士。

なんて甘い響きだろう。

…だけど。

つきあい始めて、早四ヶ月。
相変わらず三禁に捕らわれているのか、それともただ奥手なだけなのか。
未だに文次郎は、なかなか手をだしてこない。
手を出してくれるのを待っているなんて、何だかオカシイのだけれども。
やっぱり俺らって少し特殊な関係だから。
それなりに、慎重になっちゃうもんなんだろうけど。
そんな今日は、つきあって丁度四ヶ月目の日。
…ちょっと俺、頑張っちゃおうかと思います。


***


同室の伊作が保健室に泊まるこの日。
俺は廊下で風呂上りの文次郎を待ち伏せし、こう切り出した。

「今日、部屋に伊作いないんだ。…来るだろ?」
「…はぁ?」

ぽかん、
おもしろい顔で固まった文次郎。
その顔が、みるみる赤くなっていく。

「…もしかして、今日って…」
「俺らつきあいはじめて、今日で四ヶ月、だろ?」

にぱっ。
と笑うと、ますます顔を赤くする文次郎。
ああ知ってる、わかってる。
こういうの、恥ずかしくてたまらないんだよな?

「…お前、乙女くせぇの」

まだまだ口付けすらぎこちないくらいだから、
このくらいは、派手にやったって。
いいんじゃないか?なんて。

「…仕方ない、つき合ってやる」
「うわ、何だよその口調」

ふざけあいながら、廊下を歩き出した。
途中、しんベヱが用具倉庫に隠していた甘い茶菓子を少しだけ拝借して、文次郎と指先だけを繋いで歩く。
この瞬間だって、俺にしてみれば幸せで、充分な記念日なんだけど。
今日は、もうちょっと頑張る。

部屋につき、正座してお茶を入れる文次郎の顔を、真正面からみつめた。
明日になるまで、時間はあと一刻とちょっと。

「…もう、四ヶ月たつんだな」

しみじみと話し始めた文次郎の顔は、ゆるく笑っていて。
なんとなく、俺も、つられて笑う。
ああ、幸せ。

「もう、四ヶ月…」

ぼそり、
なんとなく嘆いた言葉に、文次郎が動いたのを感じた。

「留三郎」
「ん?」

ちゅ。

「…っ」

ちゅ。

「何…っ」

ちゅ。

「っ…、は」

ちゅ。

何回も降ってくる、
文次郎からの口付け。

「な、にすんだっ、?」
「ん?なんとなく」

ふっ、笑った文次郎の顔は、どことなく幸せそうで。
なんだかとっても照れてしまった俺は、慌ててお茶を煽る。
気付けば、時計はあとほんの僅かで明日を終えようとしていた。

「あ、‥」

結局、今日も何もできないのだろうか。
さっきの口吸いは、とても嬉しかったのだけど。
残念な気持ちが顔にでてしまったのか、文次郎も時計をみつめた。

「…もう少しで明日か」
「ん」
「また明日も、これが続いてくんだな」
「え?」
「明日も、明後日も、その先も、ずっと」

笑った文次郎が、すっと俺に手を伸ばす。

「ま、焦らずに」

ぎゅっと抱き締められて、文次郎の匂いに包まれる。

「まだまだ、時間はあるから」

語りかけるように、耳元で囁く。

「お前、焦りすぎ」

小さく笑って、文次郎は俺の体を離した。
離れていくのが、寂しかったから、きゅっと寝間着の裾を掴む。
文次郎に言い当てられた、俺の焦り。
恥ずかしくなって、うつむく。

「まあ…忍者のたまごとは言え、俺も男だからな」
「…」
「それなりに欲求はあるけど」
「…」
「焦ったって、なあ?」

少し照れたように、だけど飛び切り優しく笑うその姿に胸がどうしようもなく締め付けられて。
ぎゅっと抱きつくと、抱き締め返してくれる文次郎。

ああ、幸せだ。


俺と文次郎は恋人同士。
甘い関係には、まだまだ遠いけど。
ぎこちなさってのも、俺ららしい。
文次郎だって、そう思ってるんだよな?

「文次郎っ、」
「ん?」
「だいすきだぞっ!」

そう言って抱きついた俺の耳に、零時を告げる時計の音と、“俺もだ”と囁いた文次郎の優しい声が届いた。

END