小話
2012/02/16 06:58

「バレンタインは、元々バレンタイン牧師の命日だったって事、知ってるか?恋人同士を結婚させた国家反逆の罪にとわれて、死刑になった人だ」

ソファに座ってテレビを見ていた留三郎が、急にこんな豆知識を披露した。

「へぇ」

「自由に愛し合う事が、許されない時代だったんだな」

しかしながら、現代日本においてこのイベントは『好きな人にチョコと愛を贈るもの』となっていて。

実は…なぜか、うっかり、むしろ気の迷いで、俺も一応チョコ的なモノを用意してしまったのだけれど。

そんな事真面目に話されたら、渡しにくいだろ。

空気読めよ、このバカタレ。

だけど。

「…俺、この時代に生まれて来て良かったなぁ」

「…何でだ?」

俺の疑問に対し、留三郎が幸せそうに目を細めた。

「だって俺、そのお陰でお前に逢えたし、」

「そのお陰で俺もお前の事、好きになれたんだからな」

「えっ」

驚いた顔の留三郎に向かって、用意したソレを突き出す。

「文次郎…から?」

突然の事に目を見開いた留三郎。

「アーメン・バレンタイン」

「嘘ッ!?マジか!?」

「いらないなら、別に良いけど?」

「いります、いります、ありがたく戴きます!」

心底嬉しそうな顔で抱きついてきた留三郎を見ながら、俺は柄にもなく、たまにはイベント事に乗るのも悪くないなと思ったのだった。






ちなみに。

「…どうだ、留三郎?」

「ん?美味しいぞ?」

「……ホントか?」

「ああ。特にこの立派な焦げ目が…また絶妙というか、何というか…」

「………無理しなくて良いんだぞ」

俺が作った不細工なチョコは、まるで歴史を語るかの如く、何ともほろ苦い味がしたようだ。