side小金井


ダッシュする日向を見送る。


「青春だね〜」


自分でも年よりくさいと思う発言。水戸部も苦笑してる。
水戸部に檻を開けてもらって中に入る。
水戸部は入らず、入り口でまってる。

倒れている伊月に触れる。
さっきまで伊月が思っていたことがオレの中を一瞬で駆け抜けていった。
そのことに驚く。だって気絶した人の思考なんて初めてだったし。
伊月をきちんと横にした。倒れたままは体勢的にきついだろうし。
気絶した人は何も考えていないのか何も感じることはなかった。


「…日向は、すごいよね」


膝を抱え、うつむきながら言うオレ。


「さっきね、伊月が暴走したとき。オレの中に伊月の思考が入ってきたんだ」


術、解いてないのにね?と声に少し笑いを含ませていう。


「殺意と悲しみと混乱と、とにかくいろいろな感情がないまぜになってた。
それがさ、…怖くて。すごくすごく怖くて。
何も考えらんなくて、伊月の感情にのまれそうだった。
実際のまれかけてたんだと思う。
でも、日向の言葉を聞いて伊月の感情はオレからでってた。通常に戻ったんだ。
なんでだろう?って思った。
さっきわかった。
伊月に触れたとき、気絶する前までの思考がオレの中を通っていったから。
救われたんだ伊月は。
言ってほしかった言葉を、もらいたかった言葉を。
言ってもらえたんだ、日向に」


オレは何もできなかった…。
小さくこぼれ出た言葉。言っている内容は口からどんどん出ていく。
考える暇もなく。


「伊月の感情はわかったのに、怖がるだけで、
オレは伊月に何もしてあげられなかった!!!」


〔ギュウ〕


背中があったかい。というより体がすっぽり包み込まれてる?
水戸部の匂いがすごく近くからして、水戸部に抱きしめられてるんだと分かった。


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