「三年に一度でいいんです。 この子に着物と、下着を届けさせてください!」 母さんの願い。 「ほう、何故だ?ちなみに下着はこちらでも支給されるが」 「ああ、なら下着はいいです。 着物を通して、私たちがこの子を愛している事を教えてあげたいのです。 着物の着方は教えてあります。 なので三年に一度、寸法を教えてもらって、四、五着、着物を作り、この子にあげたいのです」 それは俺への愛を届けることだった。それも日向という人は叶えてくれた。 「いいが、何故着物だ?」 「この子は『毛女朗』です。 昔、私の家系では毛女朗の子が生まれる度に着物を着せて育てました。 そのため、毛女朗と、それ以外の女は着物の着方、着せ方を知っています。 私はこの子にこれからも、着物を着せたいのです」 「だからお前さんの髪は長いのか。 それにしても、会いたいではなく贈り物をしたいとは、面白いな」 「それは、願っても叶わない願いでしょ? なら、この子に対する私達の思いだけでも届けたいのです」 「いいだろう」 「だから日向さん!」 「こいつらは自分達の分を弁えている。 少しの願いくらいなら叶えてやってもいいだろう。 こいつらが願ったのは、親を自由にする事、着物を届けたいという事だけだ。 おい、お前さん。この子の着物を後四、五着持ってきな」 「何故ですか?」 「この子に着替えをこの一着だけにする気か?」 「!ありがとうございます!少々お待ちを」 母さんは家に戻り、少しして、ピンクの風呂敷包を抱えて来た。 「ほら、持って行きなさい」 「一応届く着物はこちらで一度何も変な物がないか確認するからな」 「はい、わかっています。 じゃあ、バイバイ。私たちはあなたのこと、ずっと愛しているわ」 「うん、知ってる。俺も愛してるよ、母さん、父さん」 父さんは終始無言で顔を歪ませ、母さんの言葉に頷いていたが、 「最後にこいつを抱きしめさせてください」 父さんの最初で最後の言葉。無言で頷いた日向という人。 〔ギュウ!…ギュウ!〕 二人から一回ずつ無言で抱きしめられた。 母さんは泣いていた。父さんの顔は歪んだままだった。俺は精一杯笑った。 二人からかけてもらった愛情を、かけてもらった言葉を、抱きしめてもらった温もりを、 この笑顔と共に忘れないでいようと、二人の記憶に残る俺の顔が、笑っていますようにと。 「ほら、いくぞ」 そうして俺は、その人達が乗って来た車の後部座席に乗せられ、 これから一生を過ごす場所、独房に向かった。 |