「お前トレーナーだろ!?よし、俺と勝負だ!」
元気な男の子がにししと笑いながら私にそう言った。ゲームやアニメで、トレーナー同士、視線が交わった時が勝負の合図…だとかいう無理矢理ルールは知っていたけれど、本当これ無理矢理すぎて泣いちゃいそうだよ私。
張り切りながらミネズミを繰り出した男の子は涙目の私には気付かずに頑張るぞとか1人と一匹で気合いを入れている。
本当どうしよう、私真面目に初心者なんだけど勝てる自信は皆無なんだけどな。
腰に付いたボールは一つ、隣には鳩の形の伝説一匹。
「ミュ…げふんげふんっ!マメパト、どうしよう!」
救いの手を求めるようにマメパト…ミュウを見ると、ミュウはまるで"ボクフツウノマメパトダゼ!"とでも言うように首をかくかくさせるだけだった。イラッときた。したがっってこうなった。
「フッフッフ…ゆけっ!マメパトぉぉぉお!」
《はぁぁあ!?僕今戦いたくない!》
ミュウのテレパシーによる音が頭の中にガンガン響く。耳痛いけどざまあみろ。
▼弥生はマメパトもどきをくりだした…!




どうしてこうなったのかを説明するにはおおよそ二時間ほど時間を遡る。あのときテレビの前で私が感じていた嫌な予感は見事に的中したのだ。
「トウコ…!何だか唯事じゃないみたいなの、急いで研究所に行って!アララギ博士が呼んでるわ」
焦った様子のトウコのお母さんが私の背中をぐいぐい押した。
「な、何があったの…」
訳が分からない私がすかさず聞くが、トウコのお母さんは詳しく分からないようで"とにかく!!"と急かす。騒ぎだす心臓に服の上から軽く手を当てて、深呼吸をした。のんびり出来るのはどうやら此処までだと悟った。


研究所に着くなり、イッシュ地方とは違う別の場所の地図を研究員の人から押しつけられた。何が何だか分からないまま地図を広げればローマ字でデカデカと"カントー"と書いてある。
「カントー?」
なんで、と疑問しか浮かばない私だったが、深く考える前に研究員の人が地図を閉じるのも待たずに背中をぐいぐい押した。アララギ博士に早く会え、という事らしい。しかし私が向かうよりも先にアララギ博士のほうが私の方に歩いてきて、やっぱり血相を変えて私の手首をがっしり掴んで"待っていたわ!早く!"とずんずん歩きだした。
縺れる足を何とか進めながら連れてこられたのはモニターの前で、何やら波のような周波が映し出されていた。
「トウコ、これが何だか分かるかしら?」
私の手を離したアララギ博士がパチパチとパネルを叩いた。するとピピピッと機械音を立てていくつもの映像がモニターに浮かび上がった。
大雪が吹き荒れる雪原、まるでハリケーンを見ているかのように凄まじい暴風の吹き荒れている見知らぬ町、波の荒い海……次々と現れる映像は、どれも共通して異常なほど気象が悪い。
モニターの波もそれに連動しているように荒くなったり鎮まったり、とにかく慌ただしい。
「何ですか…?すみません、分からないです」
正直にそう告げると、アララギ博士は画面を指差しながら分かりやすく説明してくれた。
「この、モニターの波のようなものはイッシュ地方のエネルギー周波よ。」
高くなったり低くなったり、落ち着かない波を指差すアララギ博士は次に異常気象を映す画像を指差した。
「これは現在のイッシュの様子よ」
思わずキョトンとしてしまう。アララギ博士はそんな私に気付いていないように、今のイッシュについて語り出した。
「今、このイッシュには神と呼ばれるポケモン…レシラムとゼクロムがいない状態なのは、トウコ。勿論知っているでしょう?あの二匹には…いえ、実は各地で神と呼ばれるポケモン達には、私たちがまだ知らなかった特別な役目があったの。」
カタン、パネルを叩くと、伝説やら幻やらのポケモンの画像がバッと現れる。
「彼らは、役目があった。"然るべき場所に存在する"という役目が。彼らは謂わば"保険"というやつなのよ。普段は必要ないけれど…突然何らかの原因で世界の調律が乱れたときに、それを正すための。」

「今、エネルギーは乱れている。つまり、世界の調律は守られていない。しかし、イッシュには然るべき場所に存在するはずの彼らがいない状態…なぜなら、N…そしてトウヤ、彼らが他の場所へ行ってしまったから。」
私の言いたいこと、分かるでしょう?トウコ、レシラムとゼクロムをイッシュに還すことに協力して。

そして、冒頭に戻り…私の突然の旅はここから始まった。


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