親切なおばさんのお陰で無事に研究所に着くことができた私。いくらカノコタウンが田舎だからとはいえ、私だったら迷子確定だっただろうな〜と他人事のように考えた。
研究所の扉の前に立ちすくんで、チャイムを鳴らすか鳴らすまいか暫く悩んでいたが、女は度胸!と勢い良く手を伸ばした。

"ピンポーン"と軽快なチャイムが鳴り響き、扉の内からドタドタと慌ただしい音が聞こえてくる。
そして、その騒音が一瞬止んだかと思うと、ガチャリと扉は開いた。
「わ、やっぱりトウコだぁ!早く入って入って!」
中から出て来たのはベルで、彼女は嬉しそうに笑みを浮かべながら私の腕を掴んで引っ張った。
半ば引き摺られるようにして研究所に足を踏み入れた私の背後を、いつの間にか戻って来ていたマメパトの姿をしているミュウが、スイーッと宙を滑るように付いてくる。
「博士、トウコが来たよぉ!」
ベルが、私の腕をしっかりと掴んだまま声を張り上げた。
「今行くわ。」
綺麗な声が聞こえて、ヒールがカツカツと床を叩く音が響いた。
「ハーイ、トウコ!昨夜はきちんと眠れたのかしら?いきなり呼んじゃってごめんなさいね」
奥から現れたアララギ博士は、この間会ったときは暗くてよく見えなかったのだが…凄く美人。
「全然大丈夫です!」
とんでもない、と顔の前で手をブンブンと振り、人のよさげな笑みを作った私を、マメパト…ミュウは腐った豚の死体でも見るような目でまじまじと見ている…ような気がする。
「さてと、トウコ。貴方にお願いがあるってことは知ってるわよね?」
「はい。」
「悪いけれど、奥に付いてきて頂戴。ちょっと特別な子なの。」
フ、とアララギ博士の瞳に影が差す。
特別…?
疑問に思いながらも、私はベルの腕を解いてからアララギ博士に付いていった。
ベルも付いてこようと一瞬体を動かしたのだが、アララギ博士は前を向いたまま"トウコだけで"と言った。
今にも歩きだそうとしていたベルは、不思議そうな表情をしながらも素直にそれに従った。
一体、何だろう。
アララギ博士が向かっている"奥"へ続く廊下は、薄暗くてどこか冷たかった。



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